目次
「いつかブライアント・パークで」
この世界に、あの場所がある。
どんなに遠く離れていても、なかなか行くことができなくても、あの場所があるから、いつか行こうと決めてるから、今日もがんばろう、って思う。
そういう場所って、誰にもあるんじゃないだろうか。
たとえばそれは、ふるさとの町だったり。
あるいは、大好きな人が住むまちかどだったり。
「いつかブライアント・パークで」
この世界に、あの場所がある。
どんなに遠く離れていても、なかなか行くことができなくても、あの場所があるから、いつか行こうと決めてるから、今日もがんばろう、って思う。
そういう場所って、誰にもあるんじゃないだろうか。
たとえばそれは、ふるさとの町だったり。
あるいは、大好きな人が住むまちかどだったり。
あきらめたほうがいい。
って、どういう意味?
松井、もしかして、怜奈のこと・・・・・・
・・・・・・好き、だったの?
ずうううん・・・・・・・
って、なんなんだ、この音。
あたしの、胸の中。急に重たくなる音だ。
まるで、戦艦級の巨船が、ずっと凪いでいた心の海に進入してきたみたいだ。
松井が、怜奈のことを・・・・・・
松井が・・・・・・
「あきらめたほうがいいな。怜奈ちゃん、アンドリューのこと」
あたしが急激に重たくなっていることにまったく気づきもせずに、さばさばと松井が言った。
え・・・・・・
「ええっ?! 松井が怜奈をじゃなくて?! 怜奈がアンドリューをっ??!!」
文脈不明なことを、あたしは口走った。
松井はきょとんとしている。あたしはたちまちまっかっかになってしまった。
「いやあの、ってか、なんで? なんで怜奈とアンドリューはだめなのっ?!」
あわてて聞いてみた。松井はちょっとフクザツな表情になったが、
「怜奈ちゃんには、言わないでほしいんだけど」
と前置きしてから、白状した。
「アンドリューは、もうずいぶんまえから、怜奈ちゃんのお父さんの会社の買収を狙ってるんだ」
バイシュウ?
今度は、あたしのほうがきょとんとなった。が、すぐに、あっと気がついた。
「それって・・・・・・つ、つまり怜奈を利用して、内部情報を得ようとしてる・・・・・・とか?」
松井は、うなずかなかった。けれど、表情からはすっかり笑みが消えていた。
いつもの松井らしくない、厳しい顔。
「そんな・・・・・・じゃあ、怜奈はだまされたってこと? あんなに好きで、ニューヨークまで飛んできたのに・・・・・・」
「いや。だましたわけじゃないよ。それとなく情報を得る素地は作ったけど、だましたり利用したりしたわけじゃない。あいつはそこまでワルになりきれないやつなんだ」
あたしは、突然思い出した。
アンドリューは、たしか怜奈に、結婚に興味ある? とか聞いたりしてた。
怜奈のバックグランドを、あれこれあたしに聞きもした。
「結婚するのはまだ早い」とも、怜奈に言ったんだ。
気があるようなふりをして、決して一度も「好きだ」とか「付き合おう」とか言わなかった。
それは全部、内部情報を聞き出すための準備だったんだ。
それだけでも、十分ワルじゃないか。
あたしは、右手に握っていた空の紙コップを、ぐしゃっとつぶした(なんでもいいからバイオレントな行為に及んでみたかった)。
「あんのヤロォ・・・・・・ゆるせないっっ!!」
松井が「うわ・・・・・・」とリアルに引くのがわかる。あたしが火炎をしょって立ち上がったのが、やつには見えたに違いない。
「ちょっ・・・・・・おい、どこ行くんだよ?!」
松井の声を振り切って、あたしは走り出した。
許せない。あの、偽王子。
自分に恋心を寄せる女子の気持ちを利用するなんて、王家の人間がすることじゃないっ。
こうなったら、なんとしても怜奈にあきらめさせなくちゃ。
さっきまで怜奈の恋を応援しまくっていたあたしは、いきなり真逆のベクトルに暴走し始めた。
あたしは息を切らして、アンドリューの会社のビルのロビーに飛び込んだ。
すぐにでも、怜奈を連れ出さなくちゃ。
そしてすぐにでも、アンドリューをとっちめてやるッ。
最近のコメント