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#12 55 MATSUI

はあ?

「凍死? 別に死ぬほどは寒くないですけど?」

と、言ってみた。

あたしのボケに、MATSUIはぷっと吹き出した。

「いや、死ぬほどサムいんだけどそのリアクション」

あーどうもすみませんね。

しかしなんだ、トウシって。さっぱり意味、わかんないし。

「あんた、なんかすっげえ真剣だっただろ。たかがベーグル一個に。迫力感じたんだよ。自分の全部を賭けてる、っていうか」

はあ?

「いや別にあたし、全部賭けたりとかしてませんけど」

かなりむっときた。そこまでいやしそうだったのかあたしは。

「いや、賭けてた。『ここでこのプレーンベーグル食えなかったら日本に帰れない』って顔してた」

あたしは絶句した。

そこまで言われるとなると、いやしいのを通り越して、ほんとに自分のすべてを投げ打ってベーグル獲得に動いたのかあたし・・・・・

「で、なんかこいつやるな、と思ったわけ。いずれどデカいことをやりそうだな、と」

どデカいこと、って・・・・・・

「ベーグル1個欲しがってじたばたしてるあたしが・・・・・・ですか?」

MATSUIはこくん、とうなずいた。

「だから、あんたの未来に投資した」

あたしはヤツを見た。
ヤツのふたつの目を、目と目の真ん中を、つながりそうでつながってないわりかし濃い眉毛、でも形のいい眉毛のあいだを。

あんまりみつめすぎて、寄り目になってしまいそうだった。

なに、それ?
あたしの未来に、投資?

もしかして、ものっすごいバカ?
いやそれとも、新手のナンパ?

いやいやいや、違う。だって、お金払って行っちゃうとこだったんだし。

そもそも、投資ったって、たった1ドルだよ?!

みつめあうこと約5秒。あたしはモウレツに焦った。どう反応していいか、さっぱりわからなくなった。

「ま、そういうこと。じゃ」

「ちょちょちょ、ちょっと待って!」

あたしは去りかけるMATSUIの「55」をまたもや引っ張って止めた。

「なんだよ。シャツ伸びちゃうだろ。これ、お気に入りなんだから」
「すいません。でも、それってなんか、フェアじゃない」

自分でもまったく想像しなかった言葉が口をついて出た。

MATSUIの視線を感じながら、あたしはずっと握っていたベーグルを半分にして、小さいほうを差し出しかけてから、やっぱり大きいほうを差し出した。

「投資してもらうんだったら、おっきいほうどうぞ」

MATSUIは差し出されたベーグルに視線を落としていたが、ようやくそれを受け取った。

「じゃ、遠慮なく」と、ヤツ。
「いや、遠慮なんて」と、あたし。

お金払ったのは、あなたのほうですから。

「あ。ちょっと待ってて」

何か急に思い出したように、MATSUIは公園の端へ駆けていった。
3分後、口にベーグル半分をくわえ、両手にあつあつのコーヒーが入った紙カップを持って戻ってきた。

カップをひとつ受け取ると、MATSUIはにっこり笑顔になった。

「それ、追加投資だから」

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コメント

一気に読み終えてしまい。。早く続きが読みたいと思いました~。ベーグルが食べたい。。そんな気持ちになったり。面白かったです。

投稿: Daisy | 2007年10月31日 (水) 13時19分

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