#2 初心者な成田
あたしの手には、A4の紙が1枚、ぺろっと握られている。
怜奈が手配してくれたeチケットってやつだ。
それは、どこからどう見ても紙にしか見えない(ってか、怜奈がメールに添付してくれたのを自分のプリンターで印刷したんだから、紙以外のなにものでもない)。
この紙が、あたしをニューヨークまで連れて行ってくれるんだ。
あたしはベッドに寝転がって、透視でもするみたいに、じぃっと紙をみつめる。
生まれて初めてのニューヨーク。
生まれて初めてのアメリカ。
生まれて初めての海外旅行。
たった一度きりの旅行が、その後のあたしの人生をすっかり変えてしまうなんて。
このとき、どうして予想できただろうか。
初めての成田空港で、あたしはすでに右も左もわからない完全なイナカモノ状態になっていた(東京から来たにもかかわらず)。
去年まで大学の英文科のゼミが一緒だった怜奈は、まったく臆することなくチェックインする。
「鈴川怜奈様ですね。いつもご搭乗ありがとうございます。シートのご希望はございますか?」
怜奈はかなりのお嬢さまで、家族で海外旅行のときはいつもビジネスクラスで行くとか。今回はあたしの予算に合わせて、エコノミーにしてくれたわけだが、常連のプレミアムクラブとかなんとかで、チェックインカウンターでの扱いが違う。
「私は通路側で。夏輝はどうする?」
「え?あ、あたしは(空が見えるから)窓側がいいっ!」
怜奈は、わかってないなあ、という感じであたしをちらりと見る。
「彼女の席も、私の席と通路を挟んで通路側にしていただけますか?」
「かしこまりました」
カウンターの担当者がカチャカチャとキーボードを叩く。
「え~っ外が見えないじゃん!」とあたしが騒ぐと、「ったく、子供じゃないんだからね」と、怜奈があきれ気味に言う。
「何時間飛ぶと思ってんの? ニューヨークまでほぼ14時間もあるんだよ。トイレに行くとき窓際だと通路に出にくいし、空港についてからだってなかなか出られないんだから。上に入れた荷物も取りにくいし」
はあ、そういうものなのか。
引率の先生に諭された小学生の気分になったが、落ち込んでる場合じゃない。
「ねえねえ怜奈、現金持ってると危ないから、トラベラーズチェック用意したんだよ。それって高得点?」
300ドル分のTCを出して自慢げに見せたが、笑われてしまった。
「いまどきTC使ってる人なんてみたことないよ。クレジットカードがあるじゃん。NYではそのへんのデリでもカードが使えるし」
そ、そういうものなのか。
いやいや、まだ挽回の余地アリ。
「でね、怜奈。日本食恋しくなるかなって思って、梅干とか都こんぶとか、あと『フリーズドライおにぎり』なんてのまで持ってきたんだよ。高得点?」
怜奈の笑いが、どことなく嘲笑っぽく変わった。
「どんなド田舎に行くつもりになってんの? NYは世界の中心だよ。寿司屋もラーメン屋もあるよ。スーパーで豆腐も売ってるし」
そ、そうか。そういうものなのか・・・・・・
ニューヨーク大学のサマースクールにも行っていた怜奈の言うことは、いちいちリアルだった。
こんなとこにも格差が出ちゃうんだよなあ。
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コメント
こんばんは!はじめして。
去年、出張先の和歌山の本屋でカフーを待ちわびてを見つけ買って読んでからのファンです。毎月新刊チェックもしています。まだ、単行本は3冊しか読んでいませんが(カフーを待ちわびて、1分間だけ、さいはての彼女)を読ませいただき、ますますファンになりました。
これからもご活躍お祈りしています。
投稿: natu | 2009年1月13日 (火) 23時14分