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#5 マンハッタンのオキテ

そうしてたどりついたニューヨークは、あたしの想像をはるかに超えてものすごい街だった。

JFK空港からチャーターバスに乗って30分。長いトンネルをくぐる。そこを抜けるとなんだか薄暗い。
あれ? と思って窓から上を見上げると、太陽の光をまったく遮断してすきまなく立ち並ぶビル群が視界に飛び込んできた。

うわっ。な、なんだこれ?!

「夏輝。口、開いてるよ」
隣に座っていた怜奈が、くすくす笑っている。
あたしはよっぽどぽかんとしてしまったに違いない。
だけど、ぽかんとしてしまうのを止めようがなかった。

これでも大学時代からいままで5年間、曲がりなりにも東京で生活している。
だから高層ビルなんて珍しくもなんともない。
六本木ヒルズの展望台だって、一回きりだけど上ったこともある。

だけど、マンハッタンの高層ビル群は、想像を絶する高さにあたしには思えた。

高さもだけど、密度が濃いっていうか。
ほんとうにぎっちりとビルとビルがくっつきあっている。
鏡のように磨き上げられた外観のビルには、どのくらい窓があるのか数えられもしない。このビルひとつひとつの中で、どれほど多くの人々が働いているんだろうか。
想像しただけでも気が遠くなりそうだ。

「ねえ、ニューヨークってこんなぴっかぴかのビルばっかりなの?」
怜奈に聞くと、「まさか」と言う。
「いまバスが走ってんのはミッドタウンって言って、セントラルパークの南で、マンハッタンの中心街ね。もっと下、っていうか南のほうへ行くと、ダウンタウンとかソーホーとか言って、もう少し庶民的で古いビルがあるエリアなの」

ガイドブックのマンハッタンの地図を指差しながら怜奈が説明してくれる。

マンハッタンは細長い島のように見えて、なんていうか、人差し指で下を指してるみたいな形をしている。
その真ん中あたりに長方形の緑色があり、これがあの「セントラルパーク」だ。
この巨大な公園の中を、ニューヨーカーたちがジョギングしたり優雅に犬の散歩をしたりする写真は、何度も雑誌や映画で見たことがある。

そのセントラルパークを中心に、地図上で上が北、下が南。右が東、左が西、と怜奈は教えてくれた。
「一度覚えちゃうと超わかりやすいよ。東西に走ってる道は『ストリート』って言って、下のほうから上に上がるほど数字が大きくなるの。ほら、ダウンタウンの辺は3rd Streetとかあるでしょ。セントラルパークの横あたりは、90th Street。それから南北に走ってる大通りは『アヴェニュー』。これは東から西へ数字が大きくなる。ね、右側は1st Avenueで、左側は7th Avenue」

ああ、なるほど。

「あと、タクシーに乗ったりしたらタテヨコのストリートとアヴェニューを組み合わせて言うと、店の名前とか住所を言うよりわかりやすいみたい。たとえば、『Broadway & Prince』って言うの」
「え? それだけでいいの? で、どこに着くの?」
「ブロードウェイとプリンス・ストリートの交差点だよ。つまり、『プラダ』と『ヴィクトリアズ・シークレット』と『アルマーニ・エクスチェンジ』と『ディーン&デルーカ』のある交差点」

へええ、とあたしは思わず感嘆する。
タクシードライバーにタテヨコの組み合わせで行き先を告げるなんて、なんかすっごくニューヨーカーっぽい。

さっそく試してみよう、と心に決めた。


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