#6 夢みたいに恋みたいに
それからの5日間は、まさしく夢のような日々だった。
23年間生きてきて、生きてることっていいよな、なんて、一度も意識したことなかった。
平々凡々、めちゃくちゃよくもないが、どうにもならないほど悪いわけでもない生活。
朝起きて、バイト行って、お弁当食べて、帰ってご飯食べてお風呂に入って洗濯して、寝る。
休みの日には友だちと会って、雑貨屋さんとかケーキ屋さんとか行って、DVD借りてきて、ご飯を作って、寝る。
ほんとにごくごくフツウの生活だ。
大学時代にちょっとだけつきあった男の子がいた。
考えてみると、あたしの恋愛モード期間は笑っちゃうほど短かった。
だけど確かにその期間は、アドレナリンやらドーパミンやらビフィズス菌やら、体内にいいものがあふれてて、生きてるのが通常の2倍以上は楽しかったように思う。
だけど、いま。
こうして五番街を、空に突き刺さる摩天楼を見上げながら歩いている、いま。
街角でホットドッグを買ってかぶりつきながら、日本の倍くらいの大きさの紙コップでスターバックスのカプチーノを飲んでいる、いま。
この瞬間ほど、生きてることを楽しんでたときって、あっただろうか。
誰かに恋してるときって、確かに楽しかった。
だけど恋が終わってしまえば、それは苦しいだけのものに変わってしまった。
でも、いまはどうだろう。
この街にあたしがいられるのは、ほんの5日間だけ。
それはたしかに、すぐ終わってしまう。
だけど、もしも、あたしがその気になって、がんばって仕事してお金を貯めて、あの紙切れみたいな航空券を買って、この5日間をもう一度再現しようと思ったら?
そして5日間だけでなく、たとえば10日間、もしかして1カ月、って決めたら?
それは100%不可能――なことじゃない。
いっかい失ってしまった恋を、もういっかいやりなおすのだって、そりゃあ100%不可能なことじゃないかもしれない。
だけど98%くらいは不可能だと思う。
あたしがこの街に戻ってこられる確率って、それにくらべたらずっと高いんじゃないのかな。
恋はどうにもなんないことのほうが多いけど、この街に帰ってこようと思ったら、それはあたし次第でどうにでもなるんじゃないのかな。
そんなふうに考えて、あたしは自然とスキップしてしまいそうになる。
ニューヨークに来て最初の日。あたしはただただ驚いて、どきどきして、きょろきょろしてた。どこへ行くにも、びくびく、おろおろ。かなり挙動不審なニホンジン観光客だった。
2日目、怜奈の案内で、とにかく歩いた。北から南へ、東から西へ。足がまんま棒になる。
3日目、怜奈に誘われるままに美術館巡り。夜はブロードウェイで「ライオン・キング」を観て大興奮。そのあと、「ブルーノート」でジャズに酔いしれる(っていうか時差ぼけのため爆睡)。
4日目、すっかり気持ちが大きくなって、ショッピングに繰り出す。とはいえ、「ティファニー」や「ケイト・スペード」で怜奈のお買い物を見てるだけ。あたしの戦利品は、「アバクロンビー&フィッチ」のTシャツ1枚のみ。
そして、今日。
怜奈が友達の結婚式で、ロングアイランドに出かける日。
朝から夜まで、たった一人で過ごす日が、とうとうやってきた。
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コメント
なんど読み返しても、ここは上手いですねえ。
それにごもっともな感じで、素敵です。
ニューヨーク行きたくなります。
投稿: ネコ | 2007年11月17日 (土) 23時16分