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#7 NYディナーのしきたり?

「じゃあいってくるね。今日いちにち、ほんとにひとりで大丈夫だよね?」

ウェディングパーティーに出かけるしたくをすっかり整えて、怜奈があたしに向かって言う。
カルバン・クラインのシルクのワンピに、きのう買ったばかりのケイト・スペードの靴とバック。ダナ・キャランのコロン「ニューヨーク」をふりかけて、怜奈はすっかりミス・ニューヨークって感じに仕上がっていた。

起きぬけでパジャマのままの自分がひどく貧相に思えてしまうのは、いまに始まったわけじゃないけれど。

「大丈夫だって。ストリートのアップ&ダウンも把握したし、イースト&ウエストも」
あたしは怜奈に習ったとおりの言い方をしてみた。
マンハッタンの地図を見ながら、あたしが「この上のほうにある・・・・・・」とか「下の右の・・・・・・」と言うのに対して、怜奈は「ツーブロックアップのとこにある店」とか「もうワンブロックダウンしてイーストに向かって」とさらりと言う。

そんなふうに、目的地をストリートのアップ&ダウン、エリアのイースト&ウエストで言えるようになったらニューヨーカーのはしくれになれそうな気がする。

「あのさ。海外って、着いた日ともう大丈夫って思ったときが一番キケンだから。アップ&ダウンでストリートを把握したからって、『あたしもニューヨーカーのはしくれだ』なんて間違ってもカンチガイしちゃだめだからね」

ううっ。なんてするどいんだこの女は。

胸のうちをまんま見抜かれて、あたしは少々どぎまぎしてしまった。
怜奈はすました顔で、「じゃあ7時にオイスターバーでね。あたしの名前で予約してあるから」と確認した。

さっきからもう3回目なんですけど。

「はいはい、わかってますって」
「このへんからだと地下鉄でもタクシーでも30分はかかるから。で、6時半くらいはタクシー捕まりにくいから、余裕を持って出てね」
「はあい。わかりましたあ」
「ちゃんとした店だから、ちょっとはおしゃれしてきてよ。だいたい、あたしがこんなキメてんのにそっちがTシャツとジーンズじゃ、つりあわない。でしょ?」

いちいちうるさいなあ、もう。

「わかった。なんかちょっとは、ましなの着てくよ」

とはいえ、いちばんましなのがきのう買ったアバクロのTシャツなんだけどなあ・・・・・・

あたしがどんよりと沈みこむのに気づいたのか、ドアを出ようとした怜奈は、「あ、そうだ」と戻ってきた。
そして、クローゼットの戸を開けると、まだタグがつきっぱなしで吊るしてあった紫色のサテンのワンピを取り出した。
やっぱりきのう買ったばかりのアナ・スイの新作。

「これ、よかったら着てきなよ」

友だちの親切な提案に、私はちょっとあわててしまった。

「え? いやでも、まだ怜奈着てないじゃん」
「いいからいいから。あたし的には夏輝がジーンズでディナーに来られるほうがマズいし」
「えーそんな悪いよ。それにこのワンピで一日じゅう歩き回るのはちょっとなあ・・・・・・」

怜奈は笑い出した。

「何言ってんだか。NYではね、ディナーのまえにはうちに帰ってシャワーを浴びて、着替えておめかしして出かけるもんなの。ほら、靴もないんでしょ。あたしのパンプス。サイズおんなじだよね?」
またまたきのう買ったばかりのミュウミュウのパンプスを差し出した。

まったく、頼りがいのありすぎるヤツ。

「じゃ、くれぐれも気をつけて。いってきまあす」

歌うように出ていこうとする親切な友を、「ちょっと待て怜奈!」と今度はあたしが引きとめた。
怜奈はほんの少し不機嫌な声を出した。
「なに? もう時間ヤバいんだけど」
「いやその。今日の怜奈、超きれいだな、と」

なんだかカレシめいたことを口にしてしまって、あたしはおおいにテレてしまった。
怜奈はふふっと笑って、「ありがと。じゃっ、See you tonight!」と、今度こそさっそうと出ていった。


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