« #8 NYデリ・デビュー! | トップページ | #10 運命の場所 »

#9 ベーグル、じゃない?

「は? え? あああああの、なんて?」

デリのお兄さんの耳にも止まらぬ光速英語に、あたしはあわてふためいた。

「なんにしましょう? って聞いてるだけだよ」

怜奈は平然として、メニューの黒板を見上げている。

「えーっとあたしはパンケーキかな。サイドにソーセージとポテトつけてもらおっと。夏輝は?」

あたしも黒板を見上げたが、目が泳いでしまう。
後ろに並んでいるキャリアウーマンふうの女の人の、イライラオーラが背中にイタい。

「あたしは、あたしは・・・・・・ええっと」

チョイスはとっくに決まっている。

もちろん、ベーグル。
ニューヨークで、もっともポピュラーなパン。でもって、あたしがこの世の中で一番好きな食べ物。

「あのっ、セサミベーグルを、もしできればトーストしてもらって・・・・・・バターをとろーりとはさんでもらいたいんだけど・・・・・・」

「For her, a toasted sesame bagel with butter, please」

しびれを切らした怜奈が、ガラスケースの向こうのお兄さんにすばやく注文をする。

ううっ。なんてなめらかな英語なんだ。

「Anything else?」
「That’s all, thanks」

ワックスペーパーに包まれたあっつあつのベーグル。
3分後に、あたしの手の中にあった。

ホテルの部屋に帰りつくのが待ちきれず、通りに出たとたん、あたしはベーグルにかぶりついた。

その瞬間、あたしのなかで食の地殻変動が起こった。

なにこれ?! う・・・・・・うますぎない?!

親がパン屋を経営してたこともあって、子供のころからパンを作り、食べ続けてきた。
でもって、いまも代官山のおしゃれなベーグルショップに勤めてる。

なのにそのとき、あたしが食べたものはベーグルじゃなかった。

いや、これがベーグルだとしたら、いままで食べてたベーグルはひとつ残らずフェイクじ
ゃないか。

衝撃だった。

初めてのニューヨーク一人歩きで、あたしは迷わずデリに突進した。

怜奈と行った店でセサミベーグル。
もう1ブロック先の角のデリでシナモンベーグル。
そのまた2ブロック先でオニオンベーグル。
3個食べて、すっかりお腹がふくれてしまった。

なんせ、日本のベーグルの1.5倍はある。かつもっちりした歯ごたえは、焼きもちを食べている感じに近い(そんなにノビないけど)。
かみ続けていると、まじでアゴがきたえられそうだ。

しかし、かめばかむほど味が出るところは、どことなく都こんぶのような。

とにかく、3個くらいじゃ話にならない。
父親に借金するときの約束で「パンの食べ比べしてこい」と言われてることだし。

まだまだ食べるつもりで、あたしはどんどんどんどん、五番街を南に向かって下っていった。

ティファニーや、ヘンリー・ベンデルや、H&Mや、ロックフェラーセンターを右に左に眺めながら。

かなり歩いたと思う。だけど、そんなにお腹は空かなかった。そのかわり、またもや足が棒になってしまった。

少し休もうかな。

そう思って交差点で立ち止まる。
目の前に、大きな白っぽい建物がある。入り口に二匹のライオン像が見える。

ああ、これたしか「ゴースト・バスターズ」に出てきたな・・・・・・ニューヨーク市立図書館だっけ?

そう思いながら、あたしの足はなぜかその角を曲がっていた。
図書館の壮大な建物の後ろに、緑の茂みが見えたからだ。

自然と、あたしの足は向かっていた。

運命の場所へと。

|

« #8 NYデリ・デビュー! | トップページ | #10 運命の場所 »

コメント

なんだ!?これは!!大好きなベーグルの事がこんなに否定され、且つ、誘ってる言葉の数々は!?
うまそうじゃないか・・・。食べたくなるように書いてるね?誘導してるよ、ね?ニューヨークってこんなベーグル売ってるんだ・・・。海外行ったこと無い私には、目の毒、いや、ココロの毒・・・。バターがトロりのくだりなんか、ほんとよだれが出そうよ。
英語使えなくてもいいから行きたいなー。ベーグル食べに!ちなみに私は、クルミとチーズたっぷりゴロゴロのベーグルが大好きです。珈琲と共に戴くのは何ともいえない幸福な時間です。あー・・・買いにいこっと!!

投稿: こたちゃん | 2007年10月28日 (日) 13時53分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« #8 NYデリ・デビュー! | トップページ | #10 運命の場所 »