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#15 オイスター・バーで

ソーホーにある「オイスター・バー」のウェイティング・エリア。なんとかたどりついたあたしは、かなり緊張して怜奈が来るのを待っていた。

どのくらい緊張してたかっていうと、
「Would you like something to drink while waiting for your friend?(お連れ様をお待ちの間に何かお飲みになりますか?)」
と案内係の女性に聞かれて、「ベーグル、プリーズ」と答えたくらいだ。もちろん、露骨に笑われた。

んもー早く来てよっ怜奈あ!

あたしはほとんど泣きそうだった。その日一日、いろんなことがあって、心の中がなんだかすごく混雑していた。

ひとりでマンハッタンを歩き回ったこと。
すごくすてきな公園を発見したこと。

間違いなく世界一おいしいベーグルを食べたこと。

そして、茨城県牛久出身、5月5日生まれの松井秀行に出会ったこと。

「今度、ニューヨークに来ることがあったら連絡ちょうだい。また会えるといいな」
ヤツは、そう言った。

また会えるといいな。
いつか、ブライアント・パークで。

「あーごめんごめん。遅くなっちゃったあ。待った?」

怜奈の声がして、はっと我に戻った。
あたしはあわてて立ち上がる。

「ううん、今来たとこ」
ってなんか初めてのデートなセリフだ。

怜奈はあたしを上から下までじろじろと見てる。あたしはいっそう緊張した。
なにしろこんなドレス系ワンピや靴は身につけたことがない。

「あー惜しい」
怜奈が一言、呟く。
あたしは、へ? となる。

「なんで? 言った通りのカッコしてきたけど」
「バッグ貸すの忘れてた。それ、駅ビルで3800円のバッグでしょ」

あたしの腕に下がっていたのは、おっしゃる通り、駅ビルのバーゲンで3000円台で買ったビニール製ハンドバッグ。

「ったくもう、夏輝も早くヴィトンのバッグ一個くらい買いなよね」
怜奈は不機嫌な顔になる。
ヴィトンを持ってないからって怒られるのは、かなり不条理なんだけど。

いちばん奥の席に通された。
いったん座った怜奈は、急に立ち上がって「ちょっとすみません。なんでこの席なんですか?」みたいなことを英語で案内係の女性にいきまいた。あたしはわけがわからなくて、ふたりの顔を見比べた。ふたりは何か言い合いをしている。

怜奈はあたしに向かって「夏輝行くよ。早く」と言った。
あたしは何が起こったのか、さっぱりわからない。案内係の女性は露骨にいやな顔をしている。

「ぐずぐずしないで。早くってば」

怜奈に引きずられるようにして、あたしは外へでた。

「ど、どうしたの? 何があったの??」
怜奈は肩で息をついた。それから、軽蔑するように言った。

「夏輝にはわかんないよね。あれ、明らかな人種差別だよ」
びっくりした。あんなに丁寧に案内してくれたのに?
「あたしたちが通された席。厨房とトイレのまん前だったでしょ。他のテーブルも空いてたのに、わざとあの席に連れてったのよ。普通は女性ふたりなら、気をつかって一番いい席に案内するもんよ。もしもあたしたちがニューヨーカーっぽい白人女性だったらね」

そう言って、怜奈は憎憎しげに店のほうを見やった。

「ニューヨークはそういう街なのよ。お金持ちと白人―WASPにだけ寛容な街なの」


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