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#16 だいっきらいNY!

言い捨てた怜奈の横顔は、プライドを傷つけられた気高い姫君そのものだった。

あたしには信じられなかった。

確かにあたしは、ニューヨークのほんの一部分しか知らない。だけど少なくともあたしの知ってるニューヨークは、貧富や肌の色で人間を区別するなんてことはない。

「そんな、考えすぎなんじゃないの? 怜奈言ってたじゃん、予約の取れない店なんだって。予約の先着順でテーブル決めてんのかもしれないし」
「夏輝はこの街の怖さを知らないんだよ。確かに治安はよくなったかもしれない。だけどいつなんどき、テロ警戒レベルが上がるかもわかんないんだよ。この街を、ものっすごく憎んでる人もいるんだよ。それはこの街が、金持ちとWASPばっかりひいきするから。だからあたしだって嫌いなのよっ、ニューヨークなんて!」

怜奈はいきなり超きゃしゃなパンプスで、道端のデカいゴミ箱をけった。あたしはすっかり青ざめた。
「れ、怜奈・・・・・・嫌いなの? この街・・・」
「嫌い! だいっきらい! せっかくおしゃれしてきたのに! 夏輝も無理しておしゃれさせたのに(いやそれは余計なお世話なんだけど・・・)! あーやだ、もう帰るっ!」

あたしたちはタクシーに乗り込んだ。
怜奈はすっかり気分を害してそっぽを向いたままだ。あたしは今まで怜奈にフラれた数々のオトコたちに心の中で合掌した。

怜奈を炎上させたヤツらは、さぞやおろおろと血迷ったに違いあるまい・・・・・・

タクシーがタイムズスクエア付近の信号で停まった。ものすごい色と光の洪水があたりいったいを真昼のように照らす。まるで宇宙船そのものだ。

ああ、この場所。ホンモノの松井秀喜がヤンキースに入団決めたとき、大喜びでバット振ってたとこだ。

ふいに、ニセモノの松井のことを思い出す。
すごい、タフなヤツなんだろうな。

もしもニューヨークが怜奈の言ったとおりの街だったら、日本人にとってこんなに生きにくいところはないだろう。

あたしは今日、五番街を意気揚々と歩きながら、あたしがその気になりさえすれば、もしかして、ほんとにもしかして、この街にもっと長くいられたりするんじゃないかな? なんて考えた。

でもそれは、ものすごく現実的じゃない。
こんなに可愛くておしゃれで、お嬢様でお金もあって、英語もしゃべれてニューヨーク経験値が高い怜奈ですら、「嫌い」と宣言しちゃうような街なんだ。

あたしなんかがへら~っと来て、おもしろおかしく暮らせるような場所じゃない。
あたしは、なんだかとてつもなくがっかりした。

明日の昼には、もうここを出て行くんだ。

きっとそれっきり、戻ることはないだろう。

急に、ぽつんと寂しくなった。

大好きなひとに、もう二度と会えないような気分。

ちょっとだけ仲良くなれたのに、結局コクれずに、大好きだった先輩と卒業式で別れてしまった。あのときの気分を思い出す。

また会おうよな。
いつか、ブライアント・パークで。

せっかく松井にそう言ってもらったのに。
1ドルプラスコーヒー代、投資してもらったのに。

もう二度と、会えないんだ。

あたしは首を伸ばして、タイムズスクエアの向こう側にあるはずの、あの公園を探そうとした。

怖いくらいの光の洪水が広がるばかりで、もちろん緑のかけらも見えはしなかったけど。

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