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#17 出会ってしまった・・・

別に、東京を嫌いなわけじゃない。
でもって、日本人女子のあこがれの街・代官山を嫌いなはずもない。

それなのに、なんだかもう、ここがぜんぜん違う街に思えてしまう。
ニューヨークから帰ってきたばかりのあたしにとっては。

「どうしたのナッキー、なんかいきなり意気消沈してね?」
バイト仲間のややちゃんに、真正面から指摘されてしまった。

今日はバイト先のベーグル屋に早出の日。朝6時出勤でベーグルづくりなのだが、時差ボケで昼夜がひっくり返っているあたしには、かなりキツい。
夜9時頃にベッドにもぐりこんだが、結局1時間くらいうとうとしただけでほぼ完徹だった。

「さてはニューヨークでいい感じの出会い系?」
ベーグルの生地を丸めながら、ややちゃんがおもしろそうに言う。
あたしはため息をつきながら応える。
「まあ、そんなとこ」
「えーー?! まじでまじで?! なになに、外人イケメン?! ナッキー英語しゃべれんだっけ?! どうやってコミュニケーションしたの?! まさかいきなりボディコンタクト?!」

矢継ぎ早に質問されて、苦笑してしまった。

「いやあ、10分くらいしか話してないし」
「なっ?! じゃあなに、ひとめぼれ、とか?!」

そう言われて、あたしは特大のため息をついてしまった。
ややちゃんは手を止めてあたしを見た。

初海外旅行で、ひとめぼれ?! ナッキー、あんた外人にダマされたんじゃね?

声に出さなくても、そう思ってるのがもろ伝わってくるよややちゃん。

しょうがないでしょ。出会っちゃったんだから。

あたしの人生のデスティネーションを決めるひとに。そして、ベーグルに。

ニューヨークから東京に帰る日。
あたしは早起きして、ひとりでブライアント・パークに出かけた。

午前7時。
地下鉄を乗り継いで、タイムズ・スクエア駅で降りて、パーカーのポケットに両手を突っ込んで、足早にブロードウェイを歩いていく。
出勤時間にはまだ少し早いのか、通りを行きかう人は多くない。
清掃車、ゴミ収集の人、ドーナツ売りのワゴン、新聞を小脇にすたすたと歩く人。ようやく目覚め始めた街を、それでも泳ぎ始める人々とすれ違いながら、私はだんだん身体も心もあたたまっていくのを感じている。

ぎちぎちに身を寄せ合って居並ぶビルのすきまから、ところどころ朝日が差し込む。その光のストライプを横切って、公園へと急ぐ。

「ベーグル・サム」のベーグルをもう一度食べたい。
そして確かめたい。あたしに、またこの街に戻ってくる気持ちがほんとうにあるかどうか。

朝のブライアント・パークは、ランチタイムのあとに見たときよりずっと静かだった。朝の冷たい空気のなかで、緑はいっそうみずみずしく、日差しはいっそうきらめきを増している。

昨日と違って、今度は迷うことなく公園に足を踏み入れる。
懐かしい場所に帰ってきた。
そんな気分になった。

新聞を広げてコーヒーをすする人や、ヘッドフォンで音楽に聴き入ってリズムを人、ゆったりと太極拳をするグループ。ここにいる誰もが、やっぱり自然にこの場所を呼吸しているのがわかる。
そんな人たちを、こちらものんびり眺めたいところだけど、あたしにはもう時間がない。

あたしはきょろきょろして、ベーグル・サムを探した。
ふと、聞き覚えのある歌うような声がする。

「サムのベーグル、世界一のベーグルだよ!」

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