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#18 Nice to meet you.

いた。

ベーグル・サムだ。
あたしは急いで声のするほうへ駆けていった。

昨日と同じように、ベーグルのたくさん並んだ箱を首から提げて、ベーグル・サムが立っていた。
出勤途中のビジネスマンらしき人たちが、声に誘われるようにして何人か通りから公園へ入ってくる。
昨日よりもずっと忙しそうに、サムは彼らにベーグルを次々に手渡していた。

あたしはビジネスマンたちに囲まれるサムを、少し離れたところから見守った。

仕立てのいいスーツをビシッとキメたビジネスマンが、クリームチーズを挟んだベーグルを片手に、また通りへと戻っていく。
ベーグルを買ったからって特別に喜んでいるわけではないけれど、通りと公園を結ぶ彼らのごく自然な流れは、毎朝サムのベーグルを楽しみにしていることを、とてもよく物語っていた。

と、急いで行き過ぎようとしたビジネスマンが、通路の脇に立っていたあたしにぶつかってきた。
ただでさえぼんやりしているあたしは、公園の朝の光景に夢心地になっていて、輪をかけてぼんやりしていたもんだから、すてーん! と音がするくらい勢いよく後ろにひっくり返ってしまった。

「Oh, excuse me」

頭の上で声がした。あたしは何が起こったのか一瞬わからずに、「へ?」と目を見開いた。

青い目がのぞきこんでいる。やがて大きな手が、私の手首をつかんで引っ張りあげた。

「I am so sorry. Are you OK?」

手をぱたぱたさせたり、あたしの肩を叩いたり、全身で申し訳なさそうにしながら、彼は何度も「ソーリー、ソーリー」と言った。

「アメリカ人はちょっとやそっとであやまらないのよ」と、怒りの収まらない怜奈が、昨夜言っていたので、そんなにあやまられたことに、あたしはかなりびっくりしてしまった。

「大丈夫ですか? ケガは、ありませんか?」

ふいに、彼は流暢な日本語で話しかけてきた。あたしはさらにびっくりしてしまった。

「あれ・・・・・・日本語、お上手なんですね」
あたしがようやく日本語で返したのを聞いて、彼はほっと胸をなでおろす。いかにも「安心した」という感じで胸に手をおき、こぼれるような笑顔になって。

「ええ、日本に長いこと住んでいたので。ところで、大丈夫ですか?」

日本語が通じるとわかって、あたしは急に元気になった。

「ええ、全然大丈夫です。あたしのほうこそ、ごめんなさい。ぼんやりしてたから」

彼はもう一度安堵のため息をついた。

「そうですか、よかった。日本から来たんですか?」
「そうです。でも今日、帰っちゃうんだけど。昨日、ここでサムのベーグルを食べて、すっかりファンになっちゃって・・・・・・最後にもう一回、食べたいな、って思って」
「そうですか。サムのベーグルは世界一ですよ。私も大好きで、毎朝買いに来ています」

そう言ってから、右手を差し出した。
「私はアンドリューです。よろしく」

あたしもあわてて右手を出した。
「夏輝です。Nice to meet you」

あたしの手をしっかり握りながら、アンドリューの目がやさしく微笑んだ。

「Nice to meet you, too」

うわっ。生まれて初めて外国人とあいさつを交わしてしまった。
映画ではよく見てたけど、外人ってほんとに出会ってすぐに名乗って握手するんだな。しかも友達の紹介とかじゃなくて、ぼんやりしててたまたまぶつかっただけなのに。

「アンドリューさんは、どうして日本に住んでいらっしゃったんですか」
「私は金融関係の会社に勤めているんです。それで東京に赴任していました。代官山に五年間、住んでいたんですよ」
「え? ほんとですか。あたし、代官山の『デイリー・ベーグル』って店に勤めてるんですけど」

アンドリューの瞳が、一瞬、輝いた。

「ああ、それ、私の大好きな店です」

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コメント

ベーグルサムは実在するんですか?
あれば、食べてみたいです。
ますます、続きが楽しみ・・・

投稿: SPROUTS | 2007年11月14日 (水) 17時53分

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