#22 公園の恋バナ
土曜日の出勤、ランチタイム。
西郷山公園で、コロッケ弁当をちまちまとほじくりながら、ブライアント・パークのことを考える。
あそこにあって、ここにないもの。
背の高い木立。よく育った木々の緑は、都会の喧騒から公園を守ってくれている。
緑色のイス。木製で軽くて折りたためる。その気になれば持って帰るのなんて簡単だ。だけどそんな人はひとりもいなさそうだ。
図書コーナー。公園を使う人々の好意で集まった色々な本が置かれている。金融の本から植物図鑑まで。絵本だってある。子供用のちっちゃい赤いイスが、本棚に寄り添うようにして置いてあったっけ。
深緑色のコーヒースタンド、何種類ものアイスが冷えてるアイスクリームバー。
舗道にこぼれる木漏れ日。
枝葉のあいだにスラリと見える、エンパイアステートビル。
それに、歌うようなベーグル・サムの声。
55番、MATSUIのTシャツ。
あたしを優しくみつめる、透き通る青い瞳。
「なにひとつないじゃん」
あたしは思わず、ひとりごとを言った。
「なにがないって?」
うしろで声がして振り向くと、怜奈が立っていた。
やっぱり今日も、ウィークエンドのキレイめOLファッションでキメてる。
まったく、大手企業にお勤めのOLさんには気を抜いたカジュアルウェアってのは存在しないんだろうか。
「お店のほうに行ったら、ランチに出てるって言われて。ここだと思った」
怜奈はあたしが座ってるベンチに腰かけた。
「どしたの。いつも来るときはメールくれてるじゃん?」
怜奈の突然の訪問に、あたしはちょっとだけ不安になった。
またニューヨーク行こうとか、言うんじゃないだろうな。
いまのあたしにその文句はかなりキケンだ。なにもかも捨てて、飛んでいってしまいそうになる。
「うん?いや、ちょっとね・・・・・・恋バナしたいな、なんて」
あたしはコロッケを喉に詰めそうになった。
「恋バナって怜奈・・・・・また合コンでもてまくりの件? それとも元カレに復縁迫られるの件?それとも・・・・・・」
怜奈の恋バナなら、ありとあらゆるトピックが想定できた。でもあたしのほうは、切れるカードは一枚もない。
「全部ハズレ。今度のは、なかなかムズかしいんだ」
と言いつつ、怜奈はちっちゃなため息をついて、夢見るような瞳で空中をみつめた。
ああ、やっぱなにやってもかわいいんだ怜奈は。
パンダがそうであるように、人類であれば確実に「カワイイ」と思ってしまう何かが、怜奈にはある。
あたしがオトコなら、間違いなく即ホレだよ。
「あのさ。このまえNY行ったとき、友だちの結婚式行ったじゃない? そのとき、知り合っちゃったんだよね・・・・・・すんごく、あたしの好みのタイプに」
「へえ、そーなんだ」
あたしはできるだけ平然と返した。
なんですぐに話してくれなかったんだろ。
「とりあえずメアド交換はできたんだけどさ・・・・・『今度いつ会えるかな』って聞いたら、『いつでも会えるよ。ブライアントパークで』なんて言われて」
ぎょっとした。
な、なにそれ?!
「ど、どーいうこと? なんで公園なの?!」
「彼のオフィスが近くにあるんだって。それで朝か昼には、そこで売ってるベーグルを買いに行くって。彼、大企業のヤンエグなのにそんなかわいいこと言うのよ。ねっ、胸キュンでしょ?」
ま・・・・・・・・・・・・・
ま、まま、まさか?
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