#23 信じられない!
偶然というにはあまりにもデキすぎた話。
けれど怜奈がいま、ちょっといいなと思っているそのオトコは、話だけ聞くと90%以上の確率で、あたしもいいなと思っているオトコのことのような気がする。
その人の名前って、アンドリュー?
そう聞きかけて、あわてて飲み込んだ。
もしも予感が的中してしまったら、どうしたらいいんだろう。
どんな相手だって、いつでも主導権をがっちり握る怜奈。どんなお坊ちゃまだろうが、いかなるエグゼクティブのおじさまだろうが、怜奈の手にかかればたちまち骨抜きになる。
そんな恋愛イリュージョニストの怜奈とアンドリューが偶然出会ってしまっていたら。
ブライアント・パークで、彼にぶつかってコケたあたしの偶然もなかなかのものだろうけど、いざ現実のステージで怜奈と張り合おうなんて度胸が、あたしにあるはずもない。
「でね。その彼が、もうすぐ日本に来るっていうのよ」
怜奈の言葉に、あたしは本格的にコロッケをのどに詰まらせた。今日はこれで二回目なんだけど。
「ま、マジで? 怜奈に会いに?」
つい、絶望的な声で聞いてしまった。
が、怜奈はあたしが絶望的になってることにはまったく気にもとめずに、ふふっと笑った。
「まさか。だったら嬉しいけど、そこまでまだ深入りしてないし」
まだってとこに異常に力を込めてる。
「仕事で出張らしいんだけど。宿泊先とか教えてくれないんだよね。わかったら部屋におしかけちゃうのになあ~」
ってかわいい顔してなかなか大胆な発言だよそれ。
「でもね。ひとつだけ、行きたいところがあるんだって、教えてくれたの。どこだと思う?」
キミと夢の国、とか言うんじゃないだろうな・・・・・
あたしはうんざりした顔をみられたくなくって、うつむいた。
あたしの視線の先には、食べかけの弁当箱の中身-キンピラゴボウと白いご飯のかたまりがあった。
それをみつめるうちに、なんだかむなしくなってくる。
怜奈は、新しい恋の始まりにわくわくしているのに。
あたしは、恋を始めることにすら、臆病になって、身体を縮こまらせている。
なんにも言わずにただうつむくだけのあたしの横顔に向かって、怜奈が一言、言った。
「『デイリー・ベーグル』に行きたいんだって」
え?
あたしはあわてて顔を上げた。
「う、うちの店に? なんで? なんで??」
「なんか以前、東京に駐在してたことがあったらしくて、この辺に住んでたとかで。デイリー・ベーグルのホウレンソウのベーグルが大好物なんだって。なんだか妙に詳しいのよ」
あたしは、自分の顔がみるみる真っ赤になっていくのを感じた。
やっぱり、間違いない。
アンドリューだ。
アンドリューが、東京にくるのだ。
しかも、うちの店に来たいって。
ホウレンソウのベーグルを食べたいって。
あたしに会いたいって。
いや、そうは聞いてないけど・・・・・・広い意味でそれに近い感じじゃないか。
信じられない。
こんな、マンガみたいな展開になってしまっていいんだろうか。
「どうしたの夏輝? なんか、顔急に真っ赤だけど?」
怜奈に指摘されて、あたしは顔をぶんぶん振った。
いやいやいや。しっかりしろ、あたし。
あの人は、あたしに会いに来るわけじゃない。
あたしの友だちに会いに来るんだ。
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