#25 MATSUIふたたび!
「あ・・・・・・ま・・・・・まま・・・・・・・まままま」
松井ぃ~~~~~~~~~っっっ?????!!!!!
そうだったのだ。
怜奈と一緒に店に現れた男。
「代官山の『デイリー・ベーグル』のホウレンソウのベーグルをぜひ食べたい」と怜奈に言ったとかいう男。
どっかの会社のエグゼクティブだとかいう男。
でもって、怜奈が一目ぼれしてしまった男。
それは、あの金髪で青い目のアンドリューじゃなかった。
5月5日生まれ、茨城県牛久出身、「55 MATSUI」・・・・・・だったのだ!
「よお。ベーグル職人」
松井はおもしろそうに声をかけた。あたしのほうは、思いっきりアゴを外して、ただただぽかんとするばかりだ。
「あれ?松井さん、夏輝と知り合いなの?」
怜奈がびっくりした目を松井に向けた。松井はにやにや笑っている。
「うん、まあね。おれの投資先。なんせいずれ世界一の・・・・・・」
「あーーっっっとぉ! いらっしゃいませえ! どちらのベーグルになさいますかっっ?!」
あたしは強制的にオーダーを取ろうとやっきになった。
「世界一のベーグル職人」などというあたしの一時的な気の迷いを、怜奈に知られたら笑われるだけだ。
「なになに? へんなの。もしかして、ニューヨークで偶然会ったとか?」
怜奈は興味シンシンで聞いてくる。
松井はショーケースの中をのぞき込みながら、
「うん。ブライアント・パークで・・・・・・」
「ほ、本日おすすめのベーグルはチーズオニオンベーグルですがっ?! あと和風のゆずベーグルなんかもありますがっ?!」
あたしはあわててリコメンドしまくった。
松井は長身を折り曲げるようにして、ショーケースの中にきれいに並んだベーグルをひとつひとつ、楽しそうに眺めていたが、
「これがいい。ハニーキャロットベーグル」
あ、それ。
あたしのアイデアで作ったベーグルだ。
「おいしそう。さすが松井さん、ナイスチョイス。じゃ、あたしもそれもらおっと」
松井の肩先にそっと手を置いて、怜奈がうれしそうに言う。
出たっ。怜奈の必殺ちょいタッチ攻撃。
このタッチにヤラれない男がこの世にいたら会ってみたいもんだ。心なしか松井も、鼻の下を伸ばしているような気がしないでも・・・・・・
ってか、なんでアンドリューじゃなくてこいつなわけ?!
ベーグルを袋に入れながら、あたしは完全に混乱した。
ややちゃんから「夏輝、それ生ゴミネットだよ」と指摘されたくらいだ。
だって、いったいどういうこと?!
あたしは光速で記憶を巻き戻しする。
ブライアント・パークで会ったとき、松井は「MPDにあるデザイン事務所でアシスタントしてて、マンハッタンに住むと家賃高いからブルックリンに住んでる」と言っていた(と、思う・・・・・#13参照)。
それってつまり、貧乏な駆け出しデザイナーだってことだよね。
でもって西郷山公園で会ったとき、怜奈は「ブライアント・パーク近くの会社に勤めるヤンエグで、かつて代官山に住んでいた」と言っていた(#22参照)。
どうしてそれがアンドリューじゃなくて、松井なのっ?!
しかも、怜奈は「結婚式で会ってキュン死しちゃった~」とも言っていた(たぶん)。
あたしが松井に会ったのは、ちょうど怜奈が結婚式に行ってたときじゃないか?!
ってことはもしかして・・・・・・
松井2号がいるの?!
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