#30 ひだまり
西郷山公園で三人と別れて、あたしは「デイリー・ベーグル」に戻った。
「夏輝。それ、生ゴミネットだってば」
お客様お買い上げのベーグルをうっかり別の袋(生ゴミネット)につめるあたしを、ややちゃんがまたもや攻め立てる。
「まあ、ぽわんとするのもわかるけど。あんたが言ってたアンドリュー様。ニッポン女子の夢の権化みたいな人だったねえ・・・・・・」
ややちゃんまで、ぽわんとしている。
げっ。よくみると目がすわってる。
もしやややちゃん、妄想のなかでアンドリューとあんなことこんなこと・・・・・・・状態になってるんじゃ?!
「しかしねえ。怜奈ちゃん相手じゃ無理だよねえ。はい! 夏輝の負け」
いきなり勝負判定されて、一瞬であたしは落ち込んだ。
「でもいいじゃん。もうひとりのほう、松井ヒデキもかなりイケてたし。あっちはデザイナーとかでしょ? 御しやすそうじゃん?」
あたしはむきになった。
「ぜんっぜん興味ないから! 王子に比べたらあっちはハズレ馬券だから!」
ってなんでそんなおっさんな表現が出るんだあたし。
どうも今日は使ったことのない単語がガンガン出てくる。それだけ常軌を逸した状況に置かれてるんだろうか。
その日はそれからも二度ほどお買い上げベーグルを生ゴミネットにつめてしまった。そのまま持ち帰ったツワモノのお客様もいたのにはびっくりした・・・・・・
その夜。
あたしはずーっともやもやした気分のまま、アパートに帰った。
とりあえず、アンドリューに再会できたことはうれしい。それは、なにがどうあれ、とにかくうれしかった。
そんなふうに、気持ちが明るむのを、あたしは久しぶりに味わった。
ニューヨークにいるときは、すべてに対してテンションの針が振り切っちゃうほどアゲアゲな気分だったから、松井にしてもベーグルサムにしても、角のデリのプエルトリカンのおじさんにしても、それぞれにかっこよく見えちゃって、やたら胸が高鳴りっぱなしだったけど。
もちろん、アンドリューに対してだってそうだ。
あんなふうに、マンガっぽい出会いをしちゃったこともあって、必要以上にいいオトコに思えたんじゃないか、と、あとになって冷静に考え直してみたりもした。
でも、今日。もう一度会ってみて、わかった。
アンドリューは、特別なひとだ。
別に金髪青い目だからとか、エグゼクティブで黒塗りの車に乗ってるからとか、そんなことじゃない(いや、そんなこともかなり大事だけど)。
生まれ持った光のようなものが、あのひとにはある。
といっても神様系じゃなくて、小鳥が集まり花もほころぶあったかいひだまりみたいな。
そのひだまりのなかにふんわり座って、いつまでもいつまでも眺めていたいような。
ああ、不思議な気持ち。
この気持ちって・・・・・・
ピルル~ッ。
携帯のメール着信音がして、あたしは夢見心地から、いっきに現実に引き戻された。
急いでフラップを開ける。
うわっ。ま、まじで?!
アンドリューから、メールがきたっ。
『今日は君に会えて嬉しかった。ペニンシュラホテルに泊まってます。よかったら、バーで会えませんか?』
・・・・・・は・・・・・・?
う・・・・・・嘘でしょ?!
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コメント
今日偶然見つけてはじめから読みました。朝からとても清々しいです。続きも期待してますm(__)m
投稿 秋田太郎 | 2007年12月23日 (日) 07時37分
いつも楽しくよんでます
投稿 ななこ | 2007年12月28日 (金) 18時31分