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#33 デザートビジネス

ビ、ビジネスって・・・・・・

こんなにテーブルいっぱいのスイーツを食べ続けることがビジネスとは。
そんなことがまかり通る世界は、「チャーリーとチョコレート工場」以外にありえない。

あたしはもろに「嘘でしょ?」という目を松井に向けた。
松井は口の周りにチョコレートをいっぱいにつけて、無心にスイーツを食べ続けている。幼稚園児そのもののような無邪気さかと言えばそうでもなくて(ってかそうだったらかなりアブないヤツだ)、意外にも真剣な面持ちで、やっぱりノートに何かを書き込んでいる。
何気なく見ると、ちょこまかとブランドロゴのような走り書きをしているようだ。

あたしは、ようやく思いついた。
スイーツを食べるビジネス。
つまり、ケーキ屋さんかなにか、スイーツ系のショップを立ち上げようとしているとか?
だってアンドリューは投資ファンドの会社の副社長だし、松井はブランドのロゴ作ったりするデザイナーなわけだし。
そういうビジネスを考えてるといっても別に不自然じゃない。

あたしは急にチョコレートケーキの上に覆いかぶさるようにして、身を乗り出した。
「どこに出店するの? やっぱ、マンハッタンの一番高級なとことか?」

アンドリューがノートから顔を上げてあたしを見た。きょとんとしている。
「出店? なんの?」
「え? だって、スイーツ食べるのがビジネスって言うから・・・・・・ニューヨークにケーキショップでも出すのかな、と思ったんだけど」

「なんだそりゃ。それって単にあんたの夢じゃねえのか?」
松井がチョコだらけの口でそう言った。
幼児並みの顔でエラそうなことを言われると、余計にむっとなる。

「別にケーキ屋やるなんて夢持ってないし」
そう言い返してやると、
「あーそうだった。あんたの夢は『世界一のベーグル職人』」

うっ、また言いやがって。

あたしがムカっとくるのをなだめるように、アンドリューがにこっと笑いかけてきた。
「私たちが店を経営するわけじゃないけどね。まあ、似たようなことをするのかな」

なぞなぞっぽいことを言われて、あたしは思わず首をかしげた。

似たようなこと?

「どっちにしてもあんたには関係ないことだから。ほら、早くそのイチゴのクレープ食って感想聞かせろよ」
あたしは再びムカムカっときた。
「なんであたしがこんなに大量のスイーツ食べて感想言わなきゃなんないわけ? だいたい、寝る前にこんなにバカ食いしたら太っちゃうじゃん」
「あれ? あんたでもそんなこと気にするんだ。どっちかっつーと栄養が行き届いてない感じがするけど」

なっ・・・・・・それってこのペチャ胸のことかいっ?!

松井とあたしが衝突寸前になるのを、アンドリューが「まあまあまあ」とあいだに入って止めた(ってか、まあまあまあ、と言いながらケンカを止めに入る外国人を生まれて初めて見た)。

「私もヒデキも、キミの味覚のセンスを信用して頼んでるんだよ。だってキミは、私たちふたりと同じ意見を持ってるんだから」
アンドリューは心なしか真剣なまなざしをあたしに向けた。

「ベーグル・サムのベーグルが、いまのところ世界一のベーグル、っていう意見。だろ?」

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