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#34 作品?

ベーグル・サムのベーグルが、いまのところの世界一。
そりゃあ確かにそう言ったけど。

「それだけじゃない。キミのベーグルには、サムに共通するセンスが感じられる。今日食べたハニーキャロットベーグル。あれ、キミの作品って言ってたよね。すぐに感想を言わなかったけど、私もヒデキも、帰りの車のなかでかなり興奮してたんだよ。『やられた、すごい才能が出てきた』ってね」

・・・・・・へ・・・・・・?

アンドリューの感想は、予想もしないものだった。

すごい才能って・・・・・・
いや、それ以上に「作品」って・・・・・・

あたしは思わず笑い出しそうになった。
「なにそれ。おおげさすぎだよ」
「おおげさなんかじゃないよ。ほんとのことだ」
アンドリューが真顔で返す。
あたしはうれしいようなくすぐったいような、どうにも恥ずかしい気分でいっぱいになってしまった。

あたしが作るベーグルなんて、ベーグル・サムのベーグルには、足元にも及ばない(そう、あっちのほうこそわずか1ドルで買える『作品』だ)。

でもまあ、王子自らお墨をつけてくれたとあれば、ぜんぜん悪い気はしないけど。
っていうか、かなり、猛烈に嬉しいんだけど。
つまり、アンドリューの言うことを真に受けたとして。

あたしのベーグルも、ニューヨークで通用する・・・・・・ってこと?

「やめとけよアンドリュー。あんまりお前がちやほやすると、この子本気にしちまうぞ」
チョコまみれの幼稚園児が口をもぐもぐさせて横ヤリを入れてきた。

自分のベーグルを芸術作品扱いされて、ほとんど幽体離脱寸前まで舞い上がっていたあたしは、松井の一言でいきなり下界に引きずり下ろされてしまった。

こんのォ・・・・・・

あたしはおしぼりを握ると、松井の顔めがけてびしゃっと投げつけてしまった。
「口の周りチョコだらけですよっ! ちゃんと拭きなさいッ!!」
この幼稚園児が! と思っていたので、そのまんまな指摘をしてしまった。

松井は5秒くらいおしぼりを顔全体に張り付かせていたが、
「はーいママ」
と言って、口の周りをごしごしと拭いた。

アンドリューはぽかんと一部始終を眺めていたが、急に笑い出した。
「すっごいなあ。天下のマツイヒデキにそんなこと言えるのは、世界中でナツキだけだ」

って別にこいつ「松井秀喜」と同姓同名なだけだし。

松井はチョコで汚れたおしぼりをくるくると丸めてテーブルの上に置くと、
「言い過ぎた。ごめん」
と、あたしに向かってひょこんと頭を下げた。

急にしおらしい態度に、あたしはかえってあたふたしてしまった。

「いや別に・・・・・・あたしのほうが、いい気になってただけで」
あたしも姿勢を正すと、松井に向かって、ひょこんと頭を下げた。
「やり過ぎました。ごめんなさい」

アンドリューはふたりをかわるがわるに眺めているようだったが、
「まあまあまあ。どっちもどっちってことで」
と言った(「ケンカ両成敗」をする外国人に会ったのは、生まれて初めてだった)。

「アンドリューの言ったことはほんとなんだ。
あんたのベーグルを一口食べて、『やられた』と思ったよ」

あたしは顔を上げた。
いままで見た中で、一番熱っぽいまなざしの松井がそこにいた。

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コメント

松井とアンドリューの考えているビジネスって?!続きが気になります!!早く次が読みたいです☆

投稿: なな | 2008年1月 5日 (土) 15時13分

すっごくはまりました!!!早く続きをぉーーー!!
読みたい!!!!!!!
私は松井派!!

投稿: mimi | 2008年1月 6日 (日) 19時37分

毎回楽しく読んでます☆
この小説に影響されて最近ベーグルがお気に入りです(笑)

松井の正体が気になりますね
(*´ェ`*)

投稿: みほ | 2008年1月 8日 (火) 00時43分

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