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#35 ハートなスイーツ

テーブルの上をすっかり取り散らかして、あたしたちはファミレスを出た。
夜気がひんやりとしみる。もう夜中の2時を回っていた。

「あ~~食った食った。さすがに腹いっぱいだなあ」

夜空に両腕をうーんと突き上げて、松井が満足そうに言う。いったい何皿のスイーツを食べつくしたんだろかこのオトコは。「食いタン」を地でいくようなヤツだ(ただしスイーツ限定だけど)。

「和の風味のデザートはなかなかイケてたな。懲りすぎてた感じは否めないけど」
松井の意見に、アンドリューがうなずく。
「私も同意見だ。やはり系列の洋菓子チェーン店の影響が大きいな」

そう言われて、あたしはようやく気がついた。

あのファミレスは、老舗の洋菓子会社の系列のレストランだ。
今年、賞味期限の偽装問題が発覚して、経営危機に陥った会社。それを皮切りに、次々に食品会社の偽装問題が発覚していた。
ほんとに日本はどうなっちゃったんだろう、と、曲がりなりにも食品に関わる者として心配になっていたんだけど。

「でも、あのレストランのスイーツは、ちょっとハートがこもってる気がした」

あたしは何気なく言った。アンドリューと松井が、同時にあたしを見た。

「ハート? どんなところにそう感じたの?」
アンドリューが、興味シンシン、って感じで聞いてきた。
深い意味もなく口走ったに過ぎなかったので、あたしはちょっと口ごもってしまった。

でも、嘘じゃない。
なんとなく、ほんわかと、ハートを感じたのだ。

「あたしが食べたバナナチョコクレープ。お皿のふちに振りかけてたチョコレートパウダーが、思いっきりお皿からはみ出してたとこ、とか」
一生懸命思い出して、そう言った。
アンドリューと松井は目をぱちくりさせてあたしを見ている。

「それのどこが?」と、今度は松井が聞いた。
「つまり」と、あたしは目の前に大きな円を指で描いてみせた。

「こうお皿があるでしょ。マニュアルどおりのデコレーションだと、チョコパウダーは、ぱっ、ぱっ、ぱっとこう・・・・・・できるだけ周りに散らす量は少なめにするはずなんだよね」
「チョコパウダーも積もれば山となる、だからな」
松井が口を挟んだ。あたしはかまわず続ける。
「でも、あのクレープは、パウダーがお皿から完全にはみ出してた。あれを作ってるデザート担当の人が、たぶん自分の判断で、大きな円形状に振りかけてる」
あたしは空中で、パウダーを振り掛けるゼスチャーをした。
「ちまちま振りかけるんじゃなくて、思い切って大きく、はみ出したっていいから、って」

一流レストランのパティシェとは違って、ファミレスのデザート担当者は、細かいマニュアルに従って飾りつけをしてるはずだ。作る人はもちろんプロじゃないだろうし、マニュアルがなければきっと作れるはずもないんだけど。

あのクレープの飾りつけをした人は、チョコパウダーにハートを込めた気がした。そんな細かいところを見ているお客がいるわけもないだろうし、テキトーにパウダーがかかっているものと、そうでないものの区別なんかつきっこないのだ。

「なるほど。それなのに、大ぶりにパウダーを振りかけた。そういう気骨のあるスタッフがあのレストランにいる、ってことだね」

アンドリューが、確かめるようにそう言った。

キコツ、という言葉をさりげなく会話に混ぜる外人を、あたしは初めて見た。

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