« #36 今度こそ、会おう | トップページ | #38 企て »

#37 気が、あります。

甘メンズとの文字通り甘い一夜を過ごした翌日。

「なんか今日、顔むくんでない? ハムスターみたいだよ」
ややちゃんにいきなり指摘された。

そりゃそうだ。一晩で一か月分くらいの大量の甘みを摂取したんだから。たぶん血糖値だって十倍くらいになってるに違いない。

あのふたり、こんな食生活をこの先もずっと送ってくとしたら、間違いなく糖尿病になるな。余計なお世話だろうけど、考えずにはいられない。

アンドリューが成人病になりませんように。
いまのあたしは、太平洋の彼方に帰ってしまう王子の健康を、心のなかで祈ることくらいしかできない。

「おっ。なんだよベーグル職人、元気に出勤してるじゃん」

予告なく、昼前に松井が現れた。
あたし以上に食べてたくせに、妙にすっきりした顔をしてる。なんだか、くやしい。
「腹でもこわしてないかと思って、様子見にきたんだけど」
余裕でそんなことを言っている。

「なになに?! ゆうべ、松井クンとなんかあったわけ??」
ややちゃんが興味シンシンで聞いてくる。あたしは無視しようとしたが、
「まあ、ちょっとね。深い仲になったっていうか」
などと、松井は言いやがった。

自分のことみたいにすっかり興奮モードになってしまったややちゃんを尻目に、あたしは松井にランチに連れ出された。
別にツーショットで出かけたかったわけじゃなかったが、きのうの「甘イベント」の真相を聞けるかもしれない。

外に出るなり「ソバ食いたい」と松井が言った。てっきり代官山の有名パティシェの店に行くもんだと腹をくくっていたあたしは、正直ほっとする。

おしゃれ系ソバ屋に落ち着くと、あたしはすぐに、
「もうアンドリューは帰ったの?」
とつっついた。松井は眠たそうな表情でお茶をすすっている。
「午前中の飛行機で帰るって言ってたよね。やっぱりビジネスクラスなの? それともファーストクラス?」
松井はまったく興味なさそうに「知らねーよ」と言う。あたしはしつこく追求した。
「ねえ、きのうのあれってさ。ほんとはやっぱり、ニューヨークにケーキ屋出すリサーチなんでしょ? それって、アルバイトとか募集してない? あたしこう見えても、ケーキ焼くのとかもうまいんだよね。特に得意なのは・・・・・・・」

「あんた、アンドリューに気があんの?」

いきなりど真ん中に直球を投げ込まれて、あたしはすっ飛びそうになってしまった。

「ああそう。やっぱりね」
って、まだ何も言ってないんですけど?!
と焦りつつ、あたしがアンドリューに気があることは、たぶん初対面の人が見たってわかるだろう。
あまりにもわかりやすいリアクションで、「はい気があります。超ありありです。むちゃくちゃ気になってます!」と気があるモードを全開にしているあたしだった。

「やめとけよ。あいつはコワいお兄さんだぜ」

松井は意外なことを呟いた。あたしは目を丸くしてやつを見た。

コワいお兄さん?

「え? どっからどうみてもイケてるお兄さんですけど?」
「そ。そこにみんなだまされるんだよ。いまこの瞬間も、だまされている女子がふたり」

ソバが運ばれてきた。松井は口に割り箸をくわえてぱちん、と割ると、にやっと笑った。

「ひとりはあんた。もうひとりは、怜奈ちゃん」

|

« #36 今度こそ、会おう | トップページ | #38 企て »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« #36 今度こそ、会おう | トップページ | #38 企て »