#38 企て
「ちょっ・・・・・・それ、どーいうこと?」
だまされてるっていうのも納得できないが、あたしと怜奈の両方がだまされてるっていうのはもっと納得できない。
松井は平然とソバをすすり始めたが、あたしがものすごい形相でにらみつけているのに気がついて手を止めた。
「あいつ、まだニューヨークに帰ってないよ。
今頃、怜奈ちゃんと青山近辺でランチ中」
え・・・・・・
胸のずっと奥のところで風に揺れてた小さな花が、しゅん、と萎れてしまった。そんな気分になった。
あたしはまたしても超みえみえにがっくりしてしまった。
こんなにわかりやすい女は、きっと松井の周りには存在しないんだろう。やつはため息をつくと、うつむくあたしの顔をのぞきこんだ。
「まあ、そんなにしょげるなって。ズブズブになっちゃうまえに、止めに入った俺の気持ちもわかってくれよ」
あたしは顔を上げて松井を見た。
じっとみつめる瞳は、なんだかあったかい色をしていた。
あれ・・・・・・こいつ、こんなに優しい目、してたっけ?
「おれもあいつの会社のCI(コーポレートアイデンティティ)手伝ってるし、あいつの会社が買収した会社の格上げのためにクリエイティブサイドからあれこれ口出ししてるし・・・・・・あいつに世話になってるのは確かなんだけどね。まあ正直、あいつらのやってる商売は情け容赦がないんだよ。それはおれが、一番わかってる」
優しい目が一転、真剣味を帯びた。あたしは首をかしげた。
「業績のいい会社に投資したり合併したりしてるんでしょ。別に、普通のことじゃん?」
正直、ヒルズ族が絡んでそうなその手のビジネスの話には、まったく興味も縁もないあたしだった。
大きな会社が小さな会社を一緒になって大きくしてやろう、ぐらいにしか理解していない。
「ずいぶん簡単に言うんだなあ」と、松井は笑った。
「企業買収の表舞台には、高笑いするやつらしか出てこないさ。影で泣くやつもたくさんいる。でも、それがビジネスってもんだ。多少の弱者は切り捨てるんだよ」
あたしはもう一度、反対側に首をかしげた。
「じゃあ、高笑いしてるのがアンドリュー? 切り捨てられるのが・・・・・・」
あ・・・・・・あたし? そして怜奈??
「まあ、ビジネスのためになら女の子のひとりやふたり、利用してもあいつには痛くもかゆくもないからな」
ひとり言みたいにそう言ってから、
「なにこれ?うんめぇ!この鴨南蛮!」
と、夢中になってソバをすすっていた。
結局、松井はそれ以上、アンドリューが何を企てているのかを明かすことなく、その夜のフライトでニューヨークへ帰っていった。
あたしは釈然としなかった。
あたしと怜奈が、アンドリューに利用されてるって、いったいどういうことなんだろう。
家に帰ってから、あたしは怜奈にメールした。
『今日アンドリューとランチしたの?』
すぐに返信がきた。
『ううん。なんで?』
あたしは返事に行き詰ってしまった。
松井か、怜奈か。どっちかが嘘をついている。
それを確かめるのが嫌で、あたしはもうメールを書かなかった。
アンドリューが仕掛けたすごい企て。
それが何かを知ったのは、彼らがニューヨークへ帰ってから一ヵ月後のことだった。
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コメント
これはっ…!
目が離せない展開になってきましたな!
投稿 ブラッキ | 2008年1月20日 (日) 08時51分
今日初めてこの小説を知り、一気に読んでしまいました。
この続きが気になる〜。
これからも楽しみにしています。
ベーグルが食べたくなってけど、私の住んでいるところが田舎なのでベーグルが売ってる店もパン屋さんもない・・・。
少し遠出して買ってこようかな〜。
投稿 jdeen | 2008年1月21日 (月) 16時42分