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#40 プロポーズ?

その日の夜、あたしと怜奈は中野のファミレスで会った。そう、甘メンたちとスイーツの大量食いをしたあの店で。

「ふうん、そうだったの。この店で・・・・・・アンドリュー、そんなこと全然言ってなかったけど?」

自分から「アンドリューが買収したF社のファミレスに行きたーい」と言い出したくせに、あたしがあの夜のことを打ち明けると、怜奈はちょっと不機嫌になった。

「あたしだって、まさかこのレストランの親会社をどうにかするためにここへ視察にきてるなんて、想像もしなかったよ」
さすがに今日はスイーツを食べる気にはならず、コーヒーをすすりながらあたしは返した。

あたしと王子になんらやましいところがない、と見てとったのか、怜奈は機嫌を直して笑顔になった。
「それにしてもすごいよね。フツウのオトコとは違うって思ってたけど・・・・・・このケーキも最高、おいしいし。さすが彼が目をつけただけある、って感じ」
目をきらきらさせて、特製モンブランをつついている。怜奈の頭のなかでは、アンドリューがシェフの帽子をかぶってモンブランを作っている姿が浮かんでいることだろう。

「でもなあ。いいんだろうか」
あたしがため息をついたので、怜奈は不思議そうな顔になった。
「なにが?」
「いや、だってさ。F社っていったら、超老舗だよ。あたしだって子供の頃から親しんできた大好きなブランドだし。それがアメリカの企業に乗っ取られたんでしょ? それって、なんかヤバいんじゃない?」

「ヤバいわけないでしょ。その逆だよ」
怜奈はいきなり反撃に出た。
「偽装問題があって、F社は倒産するかもってとこまで追い込まれたんじゃない。それを救ったわけなんだから。そういうのを金融の世界では『ホワイトナイト』っていうんじゃないの?」
怜奈の頭のなかでは、完全にアンドリューが白馬に乗った王子様に変容しているのがわかる。

あたしは怜奈以下に経済やら金融やら買収やらに縁のない人生を送っているが、でもこの場合の「ホワイトナイト」の使い方って全然違うような・・・・・・

「どうしようかな。やっぱり、アンドリューのプロポーズ、受けようかな」

まるであたしに聞こえよがしに、怜奈はひとり言をつぶやいた。
あたしはコーヒーを飲みかけて、カップを顔に衝突させてしまった。

「は?・・・・・・いま、なんと?」

プロポーズ、と聞こえた。
怜奈は思わせぶりに、ふふっ、と笑った。

「プロポーズよ。結婚に興味ある? って言われた」

え・・・・・・

あたしは、ぽかんとなってしまった。

「そ、それって・・・・・・『誰との』結婚?」
「アンドリューに決まってるでしょ」
怜奈は露骨にむっとして返した。
「そうはっきり言われたの?」
日本語でケンカ両成敗ができるくらいの男だ。そんな大事な場面で主語と目的語を間違えたりはしないだろうけど、買収劇の一件があって、あたしは急に心配になった。

怜奈、なんかものすごいカンチガイしてたりしないよね?

「はっきり言われただけじゃないけど・・・・・・」
怜奈は急に言葉を濁した。
あたしは胸騒ぎがした。

アンドリューにでれでれの怜奈を、まさかハメようってわけじゃないよね。

「ねえ、怜奈。アンドリューってさ、想像を絶する動きをするみたいだから、ちょっと慎重になったほうがよくない?」

自分でも意外だったけど、あたしは忠告じみた言葉を投げかけた。純粋に怜奈のことが心配になったのだ。

「わかってるけど・・・・・・」

怜奈は視線を食べかけのモンブランの上に落とした。

なんでも欲しいものは手に入る、何不自由ないお嬢さま。
けれどいまの怜奈は、恋をして心細くなっている普通の女の子、なんだ。

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