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#45 サイコー!

週末のランチタイム。
あたしは怜奈と一緒に、西郷山公園のベンチに並んで座っていた。

もう12月で寒いし、カフェでランチしよ、と誘ったんだけど、怜奈のほうから「今日はけっこうあったかいから、公園ランチしない?」と言ってきたのだ。

「あー気持ちいい。外でランチ久しぶりだなあ」
小春日和の日差しに背伸びして怜奈が言う。
「あの二人と一緒に、夏輝のベーグル食べたとき以来だよ」

実はあたしも、あれ以来だった。
トートバッグからベーグルサンドを取り出して、「はい、これ。本日のランチ」と手渡す。
「わ、スモークサーモンだ。大好物。サンキュ」
嬉しそうに包みを開いて、一口ほおばる。
「うん、おいしーっ。やっぱり、夏輝のベーグル、サイコー」
あたしは怜奈がちっちゃな口で一生懸命ベーグルを食べるのをしばらく眺めてから、聞いてみた。

「ねえ怜奈。怜奈はいつも、あたしの作るパンとかお菓子サイコー!って言ってくれてたよね。それってほんと?」
怜奈は笑って返した。
「あたりまえだよ。夏輝の作ったパンとか食べると、なんか自然に出ちゃうんだもん。サイコー!って」

そう。なんであれ、あたしが作ったフードを、怜奈はいつもサイコー!と言ってくれる。
大学時代に出会ってから、怜奈を(カレがいたときも含めて)喜ばせたくて、サイコー!のひと言が聞きたくて、ケーキやらパンやらお弁当やら、せっせと作って持っていったんだっけ。

ベーグルサンドを食べ終わるのを待ってから、あたしは怜奈に向き合った。

「怜奈。あたし、決心したんだ。ニューヨークに行くって」

怜奈の大きな目が、もっと大きくなった。その目をみつめて、あたしは続けた。

「怜奈がサイコー!って言ってくれるベーグルを、もっと極めてみたい、って思ってる。実はね。あの街に、あたしが勝手に『マイ師匠』って認定した世界一のベーグル屋さんがいるんだ。その話、ここにNY男子たちと一緒にきたとき、ちょっとだけ話したよね。覚えてる?」

あたしとNY男子たちの出会いについて話したとき、ベーグル・サムの話が一瞬出たのだ。
「え?そうだっけ??」
怜奈はもちろん覚えていなかった。まあ、あのときは王子に夢中になっていて、あたしの夢のかけらなんて怜奈の眼中にはなかったんだろう。

あたしは怜奈に、自分の気持ちを洗いざらい話した。
ベーグル・サムのベーグルがどんなに衝撃的だったか。アンドリューや松井も彼のベーグルにほれ込んでいること。NYから帰ってきてからずっと、あんなベーグルを作りたい!と思いつめてること。

そして、実家が店を閉めることも打ち明けた。

「父に『店を閉める』って打ち明けられたとき、正直、もうだめだな、ってあきらめかけたんだ。実家が大変なときに、のんきにニューヨークなんて行ってる場合じゃないじゃん? でもね、逆だったの。お父さん、『行ってこい。一人前になるまで帰ってくるな』って言ってくれた。かなり無理して」

あたしは苦笑した。怜奈は驚きを隠せない様子だった。

「そうだったんだ」
しばらくして、ぽつりと怜奈の声がした。

「あたしも、夏輝に打ち明けなくちゃいけないことがあるの」

あたしは怜奈を見た。大きな瞳からは驚きの色は消え、かわりに少し震えている。

「あたしね。来年、結婚するの」

怜奈の告白に、今度はあたしが目を見張った。

まさか、アンドリューと? それとも・・・・・・

呆然とするあたしから目をそらすと、怜奈は消え入りそうな声で言った。

「・・・・・・パパが決めた人と」

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