#48 帰ってきた!
ニューヨーク行きフライトの最終案内が流れる。
とうとう、このときがきた。
あたしはみんなの顔をひとつひとつ眺めると、「じゃあ、いってくるね」と声をかけた。
みんな、すごくいい笑顔だ。
「いってらっしゃい」
「がんばれよ」
「元気でね」
「目指せ世界一!」
口々に叫んで、元気いっぱいに手を振ってくれている。
ありがとう、お父さんお母さん。
ありがとう、ややちゃん。
怜奈。
みんな笑顔で見送ってくれてるのに、あたしだけが、ちょっとだけ泣きそうだった。
「夏輝!」
ゲートに入っていこうとして、怜奈の声に呼び止められた。
「あたしもいつか、必ず行くから!ブライアント・パークに!」
怜奈が一歩踏み出して、そう言った。
涙声だった。
「だから待っててね、夏輝!」
あたしは大きくうなずいて見せた。
ヤバい。
ちょっとだけ、涙がこぼれてしまった。
それを見られたくなくて、あたしは走ってゲートに飛び込んでいった。
手荷物検査のカウンターに冷凍ボックスをのっけながら、涙が流れて仕方がなかった。
きっと会おうね、怜奈。ぜったいに。約束だよ。
いつか、ブライアント・パークで。
不思議な気がする。
生まれて初めての海外旅行で、生まれて初めてJFK国際空港に降り立ったのは、つい半年くらい前のことだ。
ふたたびJFKに到着して、入国審査の長い列に並びながら、色々なことを思い出した。
空港でうろたえ、飛行機のなかではそわそわして、空港からのバスで見上げた高層ビル群に、ひとりで歓声を上げてたっけ。
それから、怜奈に教えてもらったんだ。ニューヨークの歩き方を。
北がアップタウン、南がダウンタウン。番地の見つけ方、タクシーの乗り方。楽しかったなあ。
初めてひとりで歩いたマンハッタンの街角。あのとき、こみ上げてきた思い。
ああ、この街をいつか自然に歩けたら。
時間を気にせず、目的もなく、いつまでも歩いていけたら。
そんなふうに憧れて、胸を熱くした。
その場所へ、帰ってきたんだ。
ターンテーブルからスーツケースをよっこらしょ、と下ろして、ゴロゴロと引っぱって出口に向かう。
めちゃくちゃワクワクする。自然と笑みがこぼれる。
もう、夢じゃない。
これから、あたしのニューヨーク生活が始まるんだ。
到着のドアを出ると、出迎えのプレートを掲げた人々の顔がずらりと並んでいる。
あたしは松井の指示通り、とりあえずリムジンバスでセントラルステーション付近まで行くことになっていた。
そこで松井と落ち合うのだ。
なんだか、どきどきする。なんだこの胸の高鳴りは。
まるで遠距離のカレに会うみたいじゃないか。
いやいや、とあたしはあわてて自分に言い聞かせる。
NY効果だってば。大好きな街に帰ってきたからだってば。
ふと、居並ぶプレートのなかに、見覚えのある日本人の名前が見えた。
その前で、思わずあたしは立ち止まった。
「歓迎 森田夏輝 様」
ってそれあたしの名前じゃないか?!
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コメント
偶然みつけたこのお話。楽しみに毎回読んでいます。
わたしにとっての『あの場所』が、あるはずなのに思い出せないでいます。
読んでると感じる懐かしいにおいをたよりに思い出したい…
投稿 ハニー | 2008年2月24日 (日) 17時08分
あたしも ドキドキワクワク (o´・∀・`o)ニコッ♪
投稿 こと。 | 2008年4月19日 (土) 08時55分