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#49 会社訪問

自分の名前が書いてあるプレートに引き寄せられて、あたしはそれを持って突っ立っているアフリカン・アメリカンのおじさんの顔を見た。
じろりとこっちを睨む。PRIDEにでも出てきそうなガッチリ系だ。あたしは思わず身を縮めた。

「Are you Ms. Natsuki Morita?」
こわごわうなずくと、イカついおじさんのこわもてが、急にニコ~っと崩れた。
「This way, please」
うやうやしく誘う。あたしは、はいっ!と叫んで大あわてでついていった。

・・・・・・っていきなり誰だよ?!

「ちょ、ちょっとちょっと、待ってください!
あなたは誰ですか?!」
あたしはおじさんのスーツの裾を引っぱって、ようやく尋ねた。もちろん英語で。

おじさんは、満面の笑みで答える。もちろん英語で。
「ミスター・アンドリュー・オールダムのご依頼で、あなたをお迎えに上がりました。すぐに彼のオフィスまで連れてくるようにと」

王子がシンデレラを王国の謁見の間へお連れするようにとおっしゃいました。

そう聞こえた。
って、あたしの頭の中の翻訳機はどうなってるんだろうか・・・・・・

ピカピカ黒塗りリムジンは、ミッドタウンのま新しいビルの前に音もなく到着した。

「ようこそ、ミス・モリタ」
受付であたしを迎えてくれたのは、アンドリューのアシスタントのレベッカ。金髪のセミロングヘアにダークスーツが超キマってる。「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリー・ブラッドショーみたいだ。

「こちらへどうぞ」
カツカツとヒールの音を響かせるあとから、ちょこちょことオニヅカタイガーのスニーカーでついていくあたし。
ああ、なんて絵にならないんだろう、と逃げ出したくなる。

それにしても有無を言わさずここまで連れてこられてしまった。
NYに着いたら即、現地携帯を買おうと思ってたので、松井に連絡もできない。
仕方ない、アンドリューに会ったら、その場で電話してもらおう、と思いつつ、横槍を入れてきた王子の真意を測りかねて戸惑う。

ピカピカの広いロビー、ガラス張りのエレベーター、無駄に間接照明の廊下。歩きながらずっと、あたしは口を開けたまま頭をぐるんぐるん回して見とれていた。

マホガニーの重厚なドアに金色のプレートで「Andrew H. Oldum」と書いてある。あたしはごくんとつばを飲み込んだ。

レベッカがノックをすると、「カムイン」と歌うような声。重々しいドアを開けると、目の前に、大きな窓がある広々とした部屋が現れた。

若々しい緑が芽吹くブライアント・パークの風景をバックに、いかにも社長のデスクっぽいデスクがあり、いかにも社長のイスっぽいイスに座っていた副社長のアンドリューが、青い瞳をこちらに向けた。

「ナツキ。よく来たね」

たちまち笑顔になって、アンドリューは立ち上がった。
あたしは「へへーっ」とひれ伏しそうになった。
ま、まぶしすぎます王子。

「ごめんアンドリュー、先にひとつお願いがあるんだけど」

近づいてくるアンドリューにどぎまぎしながら、あたしはあわててそう言った。
「松井に電話してもいいかな。セントラル・ステーションのスターバックスで、待っててくれてるはずなんで・・・・・・」

「ああ、そのことだったら大丈夫。私から迎えを出す、って彼にはもう言ってあるから」

「え、そ、そうなの?」
どぎまぎするあたしを、アンドリューは優しい目でみつめると、

「会いたかったよ、ナツキ」

いきなりぎゅううう~っとハグしてきた。

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