« #51 いない?! | トップページ | #53 決意 »

#52 ごめん

ニューヨークに着いて数時間後。あたしは早くも失意のどん底に突き落とされた。

サムがいない。

あたしは、あんなに憧れたブライアント・パークで、ひとり、途方に暮れた。
楡の木の下に立って、ベーグル好きっぽい感じがする何人かを呼び止めて、聞いてみた。

ベーグル・サムはどこに行っちゃったんですか?

誰ひとり、答えてくれなかった。

ああ、どうしよう。
アンドリューのランチはブッチしちゃったし。
松井には会えないし。
荷物はアンドリューの車のトランクに入れっぱだし。
とにかく、サムに会えればそこからなんとかなるだろう、と思ってたのに。

あたしはがっくりと、緑色のウッドチェアに腰を下ろして、地面をみつめた。

ふと、コートのポケットを探る。メモが入っている。
松井の家の住所が、書いてある。
あたしはぼんやりとそれを眺めていたが、
「そうか、タクシーで行っちゃえばいいんだ」
そうつぶやいて、立ち上がった。

くよくよしていても、すぐにサムが出てくるわけじゃない。風邪引いて休んでるだけかもしれない。ここは前向きに考えなくちゃ。

気を取り直して、表通りに出る。タクシーを止めて、住所を見せる。ターバンを頭に巻いたアラブ系運転手は、「オーケイ、オーケイ」と、あたしよりヘタな英語の発音で、乗せてくれた。

マンハッタンの運転手は移民が多くて、英語も地理もわかってない人がいるから気をつけて。

そういえば、出発前の豆知識で怜奈がそんなことを教えてくれたっけ。
あたしはちょっと身震いしたが、ええい、もう乗っちゃったんだ、行けるとこまで行っちゃえ! と、開き直る。

かなり乱暴な運転で、イエローキャブは西から東にストリートを突っ切っていく。セントラル・ステーション近くの信号で停まったとき、何気なく窓の外を見た。

スターバックスがある。
あ、ここ。松井と待ち合わせたところだ・・・・・・

と、思った瞬間。窓際のカウンターで、通りに向かって頬杖を突く見覚えのある野球キャップ。

あ。

「松井っ?!」
思わず叫んだ。信号が青になって、車が急発進する。

「あーーーっっ!! 停めて停めてっ!! ストーーーップ!!」

大声にびっくりしたのか、車は路肩に急停止した。後続の車が突っ込みそうになって、パッパッパーッとクラクションの大合唱になる。あたしはあわてて10ドル紙幣を手渡すと、
「おつりいらないから!」と日本語で叫んで飛び出した。

なんで? なんでなんで、松井がいるの??
約束の場所に???

スターバックスに飛び込む直前に、腕時計を見た。約束の時間から、二時間経っていた。

「・・・・・・ま、松井・・・・・・?」

あたしは息を切らしながら、背番号55に向かって恐る恐る声をかけた。
ヤンキースのキャップが振り向く。ちょっと怒った顔をしている。

アンドリューは、松井に連絡しておいた、って言ってたのに。何かの手違いだったのかな。
わかんない。なんだかわかんないけど、松井はずっとあたしを待っていてくれたみたいだ。

「ごめんっ」

あたしは地面に手が届くほど身体を前屈させて、頭を下げた。

申し訳ない。情けない。顔向けできない。
でも、ちょっと・・・・・・嬉しい。
二時間も、待っててくれたんだ。

ぽん、と肩を叩かれた。松井の大きな、あったかい手で。ふう、と安堵のため息が聞こえた。

「やっと来たな。ベーグル職人」

|

« #51 いない?! | トップページ | #53 決意 »

コメント

松井 おっきい人だなぁღღღ
包容力ってゆーか 安心出来ちゃう人って言うか♫

投稿: こと。 | 2008年4月19日 (土) 09時09分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« #51 いない?! | トップページ | #53 決意 »