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#53 決意

もうあたしはワケがわかんなくて、ここにいたるまでの経緯やいろんな言い訳が、頭の中をぐるぐるぐるぐる回って、そのままめまいがして倒れそうになった。

目に見えてクラクラしていたんだろう、松井が笑って、
「大丈夫かよおい。ぶっ倒れそうだけど」
と言う。私はへなへな~っとその場に座り込んだ。

「空港にアンドリューの車が迎えに来てて、思わず乗っちゃったの。アンドリューは『ヒデキには連絡しといたから』って言ってたから、まさか待ってるなんて思わなかった」
ようやく経緯を話すと、松井が眉を寄せて返した。
「アンドリューが? 全然、聞いてないけど」
ちょっと考え込む表情になったが、「ま、いいか。ちゃんと会えたんだしな」と、笑顔になった。
その顔を見て、あたしもほっと笑みがこぼれた。

「右も左もわかんなくて迷ってるかと思って、おれも帰るに帰れなかったんだぜ」
そう言われて、ちょっと嬉しかった。心配して、ずっと待っていてくれたのだ。すなおにありがとう、と言うのがてれくさくて、あたしはちょっとだけ言い返した。
「さすがに右か左かくらいはわかるよ。ひとりでブライアント・パークにも行ってみたし・・・・・・」

そう言いかけて、あっと思い出した。
いなくなってしまっていたんだ。ベーグル・サム。

あたしはあわてて松井のシャツをつかんで言った。
「ねえ大変だよっ! ベーグル・サムが・・・・・・」
「ああ、知ってるよ」
松井はいたって落ち着いた態度でそう答えた。
「いないんだ。二週間まえから」

とたんにあたしはむっとなった。
なんだこいつ?! そんなにまえから知ってたんなら、なんで教えてくれなかったわけ?!
こっちは、サムに会いにわざわざ日本からやってきたっていうのに。

「ちょっと! そんなことひと言も教えてくれなかったじゃん?! どうすんの? あたし、もうここまで来ちゃったよ?!」

「だからだよ」
松井はやっぱり落ち着き払って言った。
「だから、教えなかった。サムがいないなら、もう行かない。そう思って、ニューヨークに来なくなっちまったらヤバい、と思って」

あたしは、なぜだかどきっとして、松井を見た。

「親父さんや怜奈ちゃんや、みんな協力してくれたんだろ? そして何より、あんた自身が自分で決めたことだろ? 絶対にニューヨークに来るって。それを、いまさら撤回するようなことになったらヤバい。そう思ったんだ」

そうだった。
みんなの後押しがあって、何よりあたし自身が絶対に絶対に行くんだって決めて、ようやくここまで来たんだ。
サムがいなくなったからって、ベーグル職人になる夢をすぐに捨てるわけにはいかない。

もちろん、大きなダメージではあるけど・・・・・・

「ま、おれもあんたをこっちに引っぱった手前、責任あるし。調べといたよ」
「え・・・・・・何を?」
涼しげな顔をして、平然と松井は返した。
「サムの居場所」

ええっ?!

あたしは松井に飛びつきそうな勢いで叫んだ。
「ま・・・・・・マジ?! なんでそれ先に言ってくれないの?!」
松井はおもしろそうに笑って答えた。
「だって、それ先に言ったら、あんたの決意を確認できないじゃん?」

何があっても、ニューヨークに来たことは間違いじゃなかった。
自分自身の意志で、来たんだから。

松井はあたしに、それを確認させたかったのだ。

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