#66 メール
Dear 怜奈
元気ですか? あたしはもう、元気すぎてヤバいくらい。
毎朝、目覚めるたびに「あー、いまニューヨークにいるんだ! 夢みてるんじゃないよね?」と自問自答してます。だって、間借りしている松井のアパートの窓からはブルックリン・ブリッジが見えるし、サムのところへ通う道々、デリでベーグルが買える。こんな夢みたいな状況のなかで、世界一大好きなサムのベーグルを勉強できてるなんて・・・・・・ほんと、夢以外のなんでもないって感じ。
サムのベーグルを学び始めて一ヶ月が経ちました。
けっこうキビしく仕込まれてます。
なんせ、あのモッチモチの感じを出すには、ハンパじゃなく力がいるし、絶妙なオーブンの火の入れ方とか、焼き上がりのタイミングとか、「デイリー・ベーグル」の“いかに安くたくさん作るか”ってポリシーとは違うんだよね。できあがりをしみじみ眺めて「うーんちょっと違う・・・」なんてつぶやいたりするのは、なんだか陶芸の世界に近いような(って別に陶芸やったことないけど)。
とにかく「そうだったんだ!」っていうことばかり。毎日が新鮮で、刺激に満ちています。
そうそう、酵母だって手作りしなくちゃいけないんだよ。「自分と相性の合う酵母をみつけるんだよ」なんてサムは言ってます。まるで生物学の教室みたい。
それに、発酵させるとき、生地にニューヨーク・ジャズを聴かせるのもポイント。サムはデキシーランド・ジャズとかニューオリンズ・ジャズとかいろいろ聞かせてみて、「やっぱりニューヨークで録音されたCDをPLAYしてるときがサイコーの出来上がり」だって気づいたそうな。
「ナツキは日本のソウル・ミュージック聴かせてやったらいいんじゃない?」なんて言われてしまった(それって和田ア●子かな・・・・・・)。
そんなわけで、とびきりのベーグルを作るためには、まずジャズの勉強もしなくっちゃ!って感じなんです。
松井もアンドリューも、ありがたいことに、そんなあたしを応援してくれています。
前回怜奈に送ったメールにも書いたけど、あのふたりは結構苦労人で、ベーグルスタンドでのバイトが縁でいまのふたりの関係が始まったじゃない? だから、ベーグルに対する愛情は人一倍なんだよね(どっちかっていうとかなりの偏愛といったほうがいいな・・・・・・)。
松井は毎朝、ブロンクスのサムのアパートまであたしを送ってくれてから、マンハッタンのデザイン会社に出勤。早寝早起きになったからか、はたまた毎日食べるサムのベーグルのせいか、なんだかミョーに健康になって、くやしいことににお肌の調子もいいみたいで、ツヤピカで生き生きしちゃってるの。「サムに感謝しなくちゃなあ~」って毎朝地下鉄の中で言ってます。ってきっかけ作ったあたしに感謝しろよ!
なーんてね。毎朝、懲りずにつきあってくれる松井に、あたしのほうこそ感謝感謝、です。
アンドリューは「水戸一マンハッタン計画」なんてのを勝手に作って盛り上がってる(笑)。まあ、もちろんジョークなんだけど、F社の買収以来、日本のベーカリーや小売の形態にすごく興味があるみたい。
そういえば、いつも怜奈のことを気にかけてるよ。「レナは「いつこっちに来るんだ?」ってね。なんだか直接会って話したいことがあるみたいだけど・・・ 近々連絡するって言ってました。
と、まあ、自分の近況をつらつら並べてしまいましたが、そっちはどう?
もしや、結婚の話、進んじゃってるのかなあ・・・なんて、気にかかっています。もちろん、怜奈が自分で決心したことなら、あたしになんだかんだ言うすじあいは全然ないんだけど。いま、どんな状況なのか、よかったら知らせてください。
早く、怜奈に食べさせてあげられるベーグルを作れるように、がんばるからね!
では、では。 夏輝
夜11時、松井のアパートのあたしの部屋で、怜奈にメールを打つ。
『送信』キーを押して一分後に、携帯が鳴った。
「夏輝?・・・・・・あたし。ごめんね、遅くに」
消え入るような声。怜奈からだった。
「怜奈?! うわっ、ひさしぶり! たったいま、メールしたとこなんだけど」
あたしが興奮気味に言うと、
「うん。いま読んだ。だから電話した」
と、少しだけ力のこもった声になった。
そして、想定外なことをあたしに告げた。
「夏輝、あたしね・・・・・・実はいま、マンハッタンに来てるの」
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コメント
夏輝の生活スタイル…
が とても羨ましくてキラキラ輝いてて まさしく名前どうり「夏輝」
イキイキしてる彼女に元気をもらってマス
…怜奈の事が気になるけど…
投稿 こと。 | 2008年4月28日 (月) 01時43分
話の展開が気になってしょうがないです。いつもわくわくして続き待ってます☆
夏輝のひたむきさと松井の優しさに癒されてます。
投稿 めぐ | 2008年4月28日 (月) 07時41分