#68 涙の理由
涙の理由を、ふたつ、怜奈は教えてくれた。
ひとつは、あたしのベーグルが、泣けるぐらいおいしかったっていうこと。
いままでもあたしが作ったパンやケーキははんぱじゃなくおいしいと思っていたけど、今回ばかりは「やられた」と言う。
それって、最大級の褒め言葉だよ。嬉しい・・・・・・
もうひとつは、夢を確実に実現しつつあるあたしに比べて、自分の非力さが悲しくなったってこと。
自分はやっぱり、親の敷いたレールに乗って人生をのろのろと進むしかない。
そんなふうに悲観して、どうにもこうにもむなしくて、ニューヨークまで来てしまった。
そんなふうに、怜奈は打ち明けた。
「来週、結納なの」
涙をハンカチでふきながら、怜奈が言う。
「もうとっくにあきらめてたんだけど・・・・・最後に直接、アンドリューに会って、気持ちだけは伝えたほうがいいかな、って思っちゃって・・・・・・来ちゃったの。夏輝にも会いたかったし」
あたしは怜奈の肩に手をおいて、聞いてみた。
「こっちに来てること、アンドリューは知ってるの?」
怜奈は首を横に振った。
「メールでずっとやりとりはしてたんだけど・・・・・・アンドリューはあたしに興味があるふうなこと、いろいろメールに書いてくるんだけど、あたしのこと好きなのかどうなのか、ちっともわかんなくて」
「結婚すること、話したの?」
今度は、首をたてに振った。
「つい最近のメールで。そしたら、『まだ決めるのは早い、僕の話も聞いてくれ』って」
それでどうにも我慢できなくなって、怜奈は飛んできてしまったのだ。
そんなに、思い詰めてたんだ。
あたしは、とっさにどう返していいかわからなくなった。
いつも太陽のように輝いて、男の子たちの中心に座っていた怜奈。可愛くてわがままなお姫様。何不自由ない暮らしをして、こうして思い立ったらすぐニューヨークへ飛んでこられるくらい、経済的にも恵まれている。結婚相手だって、きっと世間的にはこれ以上ないくらい恵まれたバックグランドを持つ人なのだろう。
それなのに、いまの怜奈はちっとも満ち足りていない。
ほんとうに好きな人に「好き」の一言も言えずに、苦しんでいるのだ。
「ねえ、怜奈。これからすぐ、アンドリューに会いに行きなよ」
あたしは怜奈の背中をそっと撫でて、そう言った。
「もうこれ以上、先延ばしにしちゃだめだよ。一分でも一秒でも早く、伝えたほうがいい。せっかくここまで来たんだから」
怜奈はうるんだ大きな瞳をあたしに向けた。
「でも・・・・・・そんなのって、迷惑じゃないかな」
「何言ってんの、怜奈らしくないよ。あたしがアンドリューだったら、とりあえず感動する。『好きだ』って言うためにわざわざ来てくれたなんて。その思い、受け止めたくなるよ」
受け止めてよね、アンドリュー。じゃなかったら・・・・・
いずれマイベーグルが完成しても食べさせないからなっ#
怜奈はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
あたしはほっと息をついた。
「よしっ。じゃ、あたしが連れてってあげる。すぐそこだから」
「え? で、でも・・・・・・電話ぐらいしたほうが、よくない?」
「いいんだってば。アポなしのほうが喜ぶタイプなの、彼は」
今度はこっちから、サプライズ攻撃する番だ。
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コメント
うひょーッッ
ちょうどいいトコで次回のお楽しみになってしまいました
私の妄想だけが先走ります
アンドリューの返事 気になって気になって
投稿 こと。 | 2008年5月 3日 (土) 01時55分