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#69 好きだった、よね?

ブライアント・パークから徒歩2分の場所に、アンドリューの会社が入っている高層ビルがある。
あたしは怜奈をロビーまで連れていってから、アンドリューの携帯に電話をかけた。
ガラスに囲まれた吹き抜けのアトリウムを、怜奈は不安そうな目で見回している。

「待ってたよ、ナツキ」
いつもどおりの流暢な日本語で、電話口のアンドリューはいきなりそう言った。
「できたんだね、試作品。今夜、ディナーのあと10時からなら空いてるよ。ヒデキより先に、私に食べさせてくれるんだよね? じゃあ、待ち合わせ場所は・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待った!」
あたしはあわてて暴走するアンドリューを止めた。まったく、人の話を聞こうって気が全然ないんだなあ、王家の人ってのは。

「いますぐ会いたいんだけど。ちょっとだけ、時間ある?」
「わかった。いま、オーブンから出てきたやつをデリバリーしてくれたんだね。そうこなくちゃ。アシスタントを迎えによこすから、私の部屋まできてくれるかい? 手を洗って待ってるよ。ああ、楽しみだ。じゃあね」

ってどんだけ食いしん坊なんですか王子様?!


副社長室のドアの向こうには、白いクロスをかけたテーブルの前で、白いナプキンをネクタイの襟元に突っ込んでいるアンドリューがいた。

「やあ、ナツキ。ベーグルは・・・・・・」
そう言いかけて、前面笑顔をドアのほうへ向けたアンドリューは、そのまま固まってしまった。

「れ・・・・・・レナ?」

あわててナプキンをはずすと、こわばった笑顔を作って、アンドリューはあたしたちのところへ歩み寄った。

怜奈はちょっと笑みを浮かべたが、こっちもやっぱりこわばってる。まともにアンドリューの顔が見られないみたいで、すぐに顔をそらしてしまった。

「どうしたんだい? ずいぶん急に来たんだね。メールで教えてくれれば迎えの車を出したのに」
怜奈はもじもじしている。そして、あたしに助けを求めるような目を向けてきた。あたしは祈りを込めた目で見つめ返した。

がんばれ、怜奈。
ここから先は、ありったけの思いを込めて伝えるんだよ。

「あの、あたし、仕込みの途中なんで。もう帰らなくちゃ」
あたしの言葉に、ふたりともすがるようなまなざしになった。
「じゃあね。怜奈、あとで電話、ちょうだい」
絡みつく視線を振り切って、あたしは部屋を出た。

怜奈の思いが、伝わりますように。
まるで自分がいまから告白するみたいに、胸が高鳴ってしまった。
大きく息をつくと、あたしはエレベーターに向かって長い廊下を歩き始めた。そして、エレベーターホールに到着するまでに、あれ? 
と気がついた。

あたし、アンドリューのこと・・・・・・
・・・・・・好き、だったよね?

ガラスのエレベーターが、するすると降下していく。ずっと下に見えていたブライアント・パークの緑が、みるみるうちに近づいてくる。
あたしの胸は、なんともいえない、不思議な気分でいっぱいになる。

好き、だったと思う。
アンドリューのこと。

だって、怜奈も彼のこと好きだって知ったときは、こりゃあ勝ち目ないや、ってけっこうショックだったし。
真夜中に誘い出されて、あんなにドギマギして、勝負パンツを探し回ったりもしたし。

もちろん、いまでも好きだ。でも、あの頃の好き、っていうのと、ちょっと違う感じ。

ワンウェイな王子様ぶりがおもしろいっていうか。一緒にいて楽しめる、そうだな、別格の友だち、なのかな。

いま、あたしが好きなのは。
あたしの心の中を、けっこうな面積で占めているのは。

地上階に到着した。ドアが音もなく開く。
そこに現れた顔を見て、あたしの心臓は転がり落ちそうになった。

松井、が目の前にいたのだ。

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コメント

こと 改め ふわです。
怜奈とアンドリュー どーなってしまうのかしらcoldsweats01
とても気まずそうだけど・・・。
私も 夏輝と同じで 最初と今のアンドリューへの見方がかなり変わってきました。
始めは王子様的な見方をしてたけど 今は 天然キャラ的に見えてきて とてもおもしろいですup
夏輝は やっぱり あの人・・・ですよねheart02

投稿: ふわ | 2008年5月 8日 (木) 08時46分

きゃーきゃー私この展開に動揺してきましたsign01sign01

投稿: めぐ | 2008年5月 8日 (木) 21時04分

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