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#71 ワルいやつ

あきらめたほうがいい。

って、どういう意味?
松井、もしかして、怜奈のこと・・・・・・

・・・・・・好き、だったの?

ずうううん・・・・・・・

って、なんなんだ、この音。
あたしの、胸の中。急に重たくなる音だ。
まるで、戦艦級の巨船が、ずっと凪いでいた心の海に進入してきたみたいだ。

松井が、怜奈のことを・・・・・・
松井が・・・・・・

「あきらめたほうがいいな。怜奈ちゃん、アンドリューのこと」

あたしが急激に重たくなっていることにまったく気づきもせずに、さばさばと松井が言った。

え・・・・・・

「ええっ?! 松井が怜奈をじゃなくて?! 怜奈がアンドリューをっ??!!」

文脈不明なことを、あたしは口走った。
松井はきょとんとしている。あたしはたちまちまっかっかになってしまった。

「いやあの、ってか、なんで? なんで怜奈とアンドリューはだめなのっ?!」
あわてて聞いてみた。松井はちょっとフクザツな表情になったが、
「怜奈ちゃんには、言わないでほしいんだけど」
と前置きしてから、白状した。
「アンドリューは、もうずいぶんまえから、怜奈ちゃんのお父さんの会社の買収を狙ってるんだ」

バイシュウ?

今度は、あたしのほうがきょとんとなった。が、すぐに、あっと気がついた。
「それって・・・・・・つ、つまり怜奈を利用して、内部情報を得ようとしてる・・・・・・とか?」

松井は、うなずかなかった。けれど、表情からはすっかり笑みが消えていた。
いつもの松井らしくない、厳しい顔。

「そんな・・・・・・じゃあ、怜奈はだまされたってこと? あんなに好きで、ニューヨークまで飛んできたのに・・・・・・」
「いや。だましたわけじゃないよ。それとなく情報を得る素地は作ったけど、だましたり利用したりしたわけじゃない。あいつはそこまでワルになりきれないやつなんだ」

あたしは、突然思い出した。
アンドリューは、たしか怜奈に、結婚に興味ある? とか聞いたりしてた。
怜奈のバックグランドを、あれこれあたしに聞きもした。
「結婚するのはまだ早い」とも、怜奈に言ったんだ。

気があるようなふりをして、決して一度も「好きだ」とか「付き合おう」とか言わなかった。
それは全部、内部情報を聞き出すための準備だったんだ。

それだけでも、十分ワルじゃないか。

あたしは、右手に握っていた空の紙コップを、ぐしゃっとつぶした(なんでもいいからバイオレントな行為に及んでみたかった)。

「あんのヤロォ・・・・・・ゆるせないっっ!!」

松井が「うわ・・・・・・」とリアルに引くのがわかる。あたしが火炎をしょって立ち上がったのが、やつには見えたに違いない。

「ちょっ・・・・・・おい、どこ行くんだよ?!」

松井の声を振り切って、あたしは走り出した。

許せない。あの、偽王子。
自分に恋心を寄せる女子の気持ちを利用するなんて、王家の人間がすることじゃないっ。
こうなったら、なんとしても怜奈にあきらめさせなくちゃ。

さっきまで怜奈の恋を応援しまくっていたあたしは、いきなり真逆のベクトルに暴走し始めた。

あたしは息を切らして、アンドリューの会社のビルのロビーに飛び込んだ。

すぐにでも、怜奈を連れ出さなくちゃ。
そしてすぐにでも、アンドリューをとっちめてやるッ。

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コメント

ほっ。。。「あきらめたほうがいいな」の意味が分かって 気持ちが緩みましたhappy01
心の中で「だよねだよね。松井はレナちゃんじゃないよね」って言ってみたり。
それに関してはクリアだけど 次はアンドリューVS夏希bomb
どんな展開になるのか またまたドキドキしてますsweat01

投稿: ふわ | 2008年5月14日 (水) 01時37分

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