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#74 デビュー

一ヶ月後、午前十時。サムのアパート。

「おい、ちゃんと個数確認したか?」
松井の声が背中に飛んでくる。

大きなキャリーボックスには、透明のプラスチックの袋にきれいに包まれて、ベーグルがぎっしり詰め込まれている。

「数えたってば。プレーン30個、チーズ30個、ブルーベリー20個、それに・・・・・・」

「ヤキソバベーグル20個も」
楽しそうに、サムが横から付け足した。

「やっぱり」と松井は不満そうな声を出す。
「ヤキソバベーグル20個じゃ少なすぎだって。『ナツキのベーグル』はそれを看板にしたほうがいいって、何度も言っただろ」

「えーだってさあ。ニューヨーカーがヤキソバベーグルなんて(日本人でも食べたことのないようなシロモノ)受け入れてくれるとはあんまり思えないし・・・・・・」

サムがまた、口をはさむ。
「私も言っただろナツキ? ニューヨーカーは新しいもの好きなんだ。引っ込み思案にならずに、がんがんやっちゃえばいいんだよ」

ってとりあえず20個にしとこう、って言ったのはサムのくせに・・・・・・

「まあ、とにかく」
サムはあたしの白い目を避けるように、両手を勢いよく、ぱん、と合わせた。
「準備万端! いつでも行けるよ、ヒデキ」
「よしきた。じゃ、連絡するぞ」
松井は携帯電話をかけた。

「アンドリューか? こっちは準備OKだ。パークの、いちばんいい場所をスタッフに陣取ってもらってくれよな・・・・・・え、横断幕?」

な、なんですと?!

「ちょっ・・・・・かして!」
あたしはあわてて松井の手から携帯電話を奪った。

「もしもしアンドリュー? 何なの横断幕って?」
「ああナツキ。私の部屋の窓に『祝・ナツキのベーグル オープン』って書いた横断幕を張り出そうかなって思って・・・・・・あ、もちろん英語でだよ?」

あたしはアンドリューの日本語が理解できずに青くなった。
松井はお腹を抱えて笑っている。サムまで一緒に笑い出した。

「えーっやめてよもう! お願いだってば王子様っっ!!」
あたしは赤くなったり青くなったりして、ひとりであたふたしてしまった。

なんて日なんだろう。
なんてとんでもなくて、なんてどきどきして、なんて楽しい日なんだろう。

今日は、あたしのベーグルのデビューの日。
いつか、ブライアント・パークで・・・・・・と思っていた。
でも、もう違うんだ。

いつか、じゃなくて、今日。
今日、ブライアント・パークで。
あたしは、夢のベーグルを売り出すんだ。

サム直伝のベーグルが完成してから、今日まで。どんなベーグルを作っていくべきか、どうやってみんなに知ってもらうのか。あれこれサムと話し合ってきた。
準備に準備を重ねて、今日のこの日を迎えたんだ。

完成してすぐ、松井に食べてもらった。
超どきどきして、なんか告白する気分そのもの、って感じだった。

松井はひと言、「すげえ」と言った。
そのあとすぐに、「ヤキソバはさんでいい?」と言った。

まったく、なんなんだそのリアクションは?!

それから松井は、あたしのベーグルにはオリジナリティがある、だからヤキソバベーグルみたいな変わったオプションもありだと思う、と言ってくれた。

そしてそして、もうひと言、言ってくれたのだ。

おれにも、手伝わせてくれないかな。
「ナツキのベーグル」をみんなに知ってもらうために。

なんだか、告白されたみたいに・・・・・嬉しかった。

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コメント

すごぉいめっさ有名になりそう

投稿: | 2008年5月25日 (日) 15時23分

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