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#77 トウキョウ

さあ、準備完了。

◎のマークのついたボックスを首から提げたサムとあたしは、並んで立った。
目の前に、松井とレベッカがいる。でもって、松井はビデオカメラをこっちに向けている(頼むからやめてほしい・・・・・・)。

「Are you ready, Natsuki?」
サムが横から声をかける。あたしはサムを見上げて、大きくうなずいた。

「Sure! I’m ready!」

せえの。

「サムとナツキのベーグル、本日開店!」

あたしたちふたりは、声を合わせて高らかに宣言した。

公園内の小道を歩いていたビジネスマンが、芝生の上に寝転がっていた学生が、こっちを振り向いた。
「あっ、こっち見てくれた」
あたしがウキウキすると、
「まだまだ。もう一丁、いくぞ」
サムはそう言って、あのじんとしびれるような、ブルースを歌う調子で叫んだ。

「新作ベーグル『トウキョウ』発売! 世界にただひとつ、ここブライアント・パークにしかないベーグルだよ!」

ヤキソバベーグル「トウキョウ」の名付け親は、松井(ほんとは最初『ミト』にするって、やつは言い張ってたんだけど・・・・・・)。
そして「One & Only @Bryant Park(ただひとつ、ブライアントパークだけで)」というキャッチコピーも一緒に考えてくれた。

世界に、たったひとつ。ここニューヨーク、ブライアントパークだけで・・・・・・
なぜか、「トウキョウ」という名の、ヤキソバをはさんだベーグル。
意味がわからん・・・・・・

「おもしろいね。それ、ひとつください」

と、最初にやってきたのは、なんとアンドリューだった。
あたしたちは顔を見合わせて、こっそり笑いをかみ殺した。

「おおっ、なんだこれは?! フライド・ヌードルがはさんである・・・・・・めずらしいな。どれどれ・・・・・・うわっ。うまっ! うまいよ、これ?!」
とまあ流暢な英語で(当たり前だけど)、しゃあしゃあと・・・・・・

王子の迫真の演技につられて、ひとり、ふたり、足を止める人たち。

「『トウキョウ』? クールな名前だね。それひとつ。あとプレーンも」
「私も『トウキョウ』。同僚に買ってってあげるから、みっつね」
「僕も『トウキョウ』1個と、ブルーベリー1個。クリームチーズも」

 発売開始20分後。

 あたしたちの前に、あっというまに驚くほどの行列ができた。
 サムとあたしは、んもう本気全開で、売って売って売りまくった。
サムが計算して、あたしが袋に詰める。ディスプレイボックスがまたたくまに空になる。それを松井が補充、気がつくと、アンドリューとレベッカまでが、一緒になってベーグルを取り出して並べている。

「ランチタイムはスピードが勝負だからね」と、アンドリューは仕立てのいいシャツの袖を捲り上げて、白い歯をきらめかせて笑っている。
うっ、やっぱまぶしいです王子様。

 発売開始1時間後。

「やったぞ、ナツキ。完売だ」

サムの声がした。

見ると、補充用ボックスはすっかり空っぽになっている。
あたしは、きゃあっ、と飛び上がってサムに抱きついた。

「すごいぞ、ナツキ。『トウキョウ』は、10分で売り切れてたじゃないか」
サムは、信じられない、というように首を振っている。もちろん、あたしにだって信じられなかった。

抱き合って喜び合うあたしたちを、松井が「すげえな、まじで。やるじゃん」と面白そうにあたしたちをビデオに写している。
もう、ほんとやめてってば~・・・・・・

と、きちんとスーツを着たビジネスマンらしきふたりの男が、足早に近づいてきた。

「失礼。ベーグル・サム・・・・・・サム・ジョーンズだね?」

名前を呼ばれて、サムに緊張が走るのがわかった。
男のひとりは、ジャケットの内ポケットからIDを出して見せながら、言った。

「ニューヨーク市衛生局の者だが」

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コメント

人がいい気分に浸りながら読み終わろうとしてた時に 衛生局の人…bomb

しっしsign03よそに行って下さい。

投稿: ふわこ | 2008年6月 4日 (水) 01時42分

「トウキョウ」!(笑)
いいネーミング☆


しかし…衛生局の人早いデスヨっ!!(笑)

どうなるのサム~
(>Θ<)

投稿: リコノコ | 2008年6月 4日 (水) 10時20分

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